国内

『オバタリアン』ブームから30年超 作者が語る“社会を映し出すおばさん”

(写真/女性セブン写真部)

阿佐ヶ谷姉妹はラジオとテレビのレギュラー本数が週5本を超える人気ぶり(写真/女性セブン写真部)

「うるさい」「おせっかい」などと陰口を叩かれることも多かった「おばさん」が変わり始めている。お笑い界では阿佐ヶ谷姉妹がスターダムにのし上がり、ドラマ界では松嶋菜々子がテレビ朝日系ドラマ『となりのチカラ』で「占いおばさん」を演じて話題沸騰。女優・南果歩は「乙女オバさん」を自称し、そのままエッセイのタイトルにした。

 自称する人あり、なりたがる人あり……おばさんが主役に躍り出るいまに至るまで、彼女たちはどんな変遷を辿ってきたのだろうか。古典エッセイストで『オバサン論』の著書がある大塚ひかりさんはいう。

「そもそも“おばさん”という言葉が生まれたのは意外と遅く、江戸時代の後期になってから。母や父の姉妹を示す『伯母(叔母)さま』から変化して、第三者の年配の婦人を指す言葉として使われていたようです。ただ、この頃は悪い意味はなく、“世話を焼く人”というニュアンスでした」(大塚さん)

 それ以前の時代を振り返ると、『源氏物語』の中にも源典侍という“おばさん”が登場するほか、大塚さんによれば、奈良・平安・鎌倉時代の文学はおばさんが担っていると言っても過言ではないという。

「『万葉集』で大活躍の大伴坂上郎女は家持の文字通りの“おば”として、一族の中心となって歌の道を支えていました。教科書でおなじみの『蜻蛉日記』や『更級日記』も作者のおばさん世代によって書かれています。

 また、誰も聞いていないのに自身の赤裸々な性生活を綴る『とはずがたり』の作者である後深草院二条が執筆を始めたのはおばさんになってから。日本文学の基礎の一部はおばさんによって作られたというのは間違いないでしょう」(大塚さん)

 江戸から明治、大正と時代が移り変わる中でも、「世話を焼く中高年女性」というイメージにはそれほど大きな変化がなかった。エンタメの中でもそれは同様だ。明治時代を代表する文豪である夏目漱石の『坊っちゃん』には主人公の坊っちゃんの身を案じる女中の清が登場したり、長谷川町子が昭和中期に連載を開始した『エプロンおばさん』には下宿屋のおばちゃんとして周囲の面倒をみる主人公が描かれたりするが、それを見て「なりたい」と憧れるムードも、反対に忌避する風潮もなかった。

 しかし1980年代の終わり、日本がバブル期を迎えるとその“おばさん観”が一変し、多くの人々の注目を集めることになる。そのきっかけとなったのは皮肉にも厚かましい中年女性の姿をコミカルに描いた4コマ漫画『オバタリアン』(1988〜1998年、竹書房)だった。

 大仏パーマに膝下ストッキング姿のおばさんたちが世間の目を物ともせず街中をがに股で闊歩し、着古した洋服を「サイズが合わない」と返品したり、電車の席の小さな隙間にむりやり座ったり、男子トイレにずかずか入ったり……ずうずうしく無神経なおばさんの習性は笑いとともに大反響を呼び、「オバタリアン」は1989年の流行語大賞にもなった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

『マモ』の愛称で知られる声優・宮野真守。「劇団ひまわり」が6月8日、退団を伝えた(本人SNSより)
《誕生日に発表》俳優・宮野真守が30年以上在籍の「劇団ひまわり」を退団、運営が契約満了伝える
NEWSポストセブン
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン
貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
「まだまだ伸びしろがある」…平成の大横綱・貴乃花が“令和の新横綱”大の里を語る 「簡単に引いてしまう欠点」への見解、綱を張ることの“怖さ”とどう向き合うか
週刊ポスト
インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
1966年はビートルズの初来日、ウルトラマンの放送開始などが話題を呼んだ(時事通信フォト)
《2026年に“令和の丙午”来たる》「義母から『これだから“丙午生まれの女”は』と…」迷信に翻弄された“昭和の丙午生まれ”女性のリアルな60年
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト