老化現象の中でも怖いのが、脳の老化や病気が原因となって発症する「認知症」だろう。どんな取り組みをすれば予防することができるのか。認知症研究の権威で、応用健康科学、脳科学が専門の公立諏訪東京理科大学教授・篠原菊紀氏はこう話す。
「認知機能の低下予防には、ワクワクしながら記憶力や情報処理力、集中力を維持する遊びも大切。高齢者におすすめの『脳の活性化に役立つ生活習慣』のひとつは、麻雀、パチンコ、パチスロです」(以下、「」内はすべて篠原教授)
ギャンブルのイメージが強く、座ったまま行なうこれらのゲームは“不健康”というイメージもあるが、それが高齢者の「脳の活性化」に役立つとはどういうことか。
「麻雀は、対戦相手の手の内を想像しつつ手持ちの牌を組み合わせ、役を作っていくゲームですが、その複雑な思考が脳の活性化につながるのです。
麻雀中の人の脳活動を調べると、知的活動の中枢である前頭前野、相手の気持ちを読むなど想像力に関わる側頭頭頂接合部が活性化していることが分かりました。前頭前野は、情報や記憶を一時的に保持し組み合わせて答えを出す『ワーキングメモリ』の中核。頭で考えながら目で相手の表情を読み、自分の次の手を考える麻雀は、複数のことを同時に行なうため、ワーキングメモリを使う機会が多いと考えられる。
ワーキングメモリは会話や読み書き、計算など日常生活のあらゆる場面での判断や行動に関わる機能です。さらに前頭前野は脳の他の領域をコントロールする働きもあり、麻雀でワーキングメモリが鍛えられれば、認知機能が維持されやすい可能性があります」
同じく脳を活性化する目的の『脳トレ』とは違う部分もある。
「麻雀には、山から牌を引くときに指で触って麻雀牌の図柄を推測する『盲牌』がある。頭と一緒に手先を動かすことで、前頭前野とあわせて運動や触覚などを司る運動野や体性感覚野などが強く活性化します」
主に4人1組でテーブルを囲むゲームスタイルも、脳の活性化に役立つ。
「認知機能の低下予防には、人との関わりやコミュニケーションが重要と考えられています。認知症予防のために開かれる麻雀会に参加し、一緒に卓を囲む相手との会話を楽しむことも、意義は大きいと言えます」
篠原教授の調査では、こんな研究結果も出た。
「脳年齢を推定するシステムを利用し、マージャン愛好者55人、平均年齢68歳の脳年齢を算出したところ、実年齢より2~3年若返っていることが分かりました」