3月4日午後、開幕を2週間後に控えたセンバツ甲子園の組み合わせ抽選会がオンラインで行われる。今回の選考では、昨秋の東海大会準優勝で出場が確実視されていた聖隷クリストファー(静岡)の落選に議論が沸騰。この問題を巡り、東海地区の選考委員長や静岡高野連理事長の談話を本誌・週刊ポストでスクープしてきたノンフィクションライター・柳川悠二氏が、日本高等学校野球連盟(日本高野連)のトップである寶馨(たから・かおる)会長を独占取材。見解を問うた。【前後編の前編、後編を読む】
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第94回選抜高校野球大会の組み合わせ抽選会が3日後に迫った3月1日、静岡県浜松市にある聖隷クリストファー高校では卒業式が行われていた。校長であり、野球部の指揮官である上村敏正監督(64)は、卒業生やその保護者に向け、時折、聖書を引用しながら、こんな言葉を贈ったという。
「人間の業(わざ)のひとつは、『忘れる』ということ。どんなに辛いことがあっても、時間が経過すれば人間は必ず忘れるものです。ただ、もう一つ、人間には業がある。それは『思い起こす』ということです。せっかく忘れた辛いことも、フラッシュバックのように思い起こすことがある。そうした試練を我々は乗り越えるしかない。試練というのは、神様がきっとあなたなら乗り越えられると思って与えたもの。だから乗り越えなければならないし、乗り越えられるものなんです」
その言葉は聖隷の現役部員、そして自身にも向けられたものかもしれない。
聖隷の硬式野球部は、昨秋の東海大会で準優勝し、選抜への出場は“当確”となったはずだったが、1月28日の選考委員会で優勝した日大三島(静岡)に続く東海地区2枠目の代表に選ばれたのは、ベスト4であった大垣日大(岐阜)だった。
秋の都道府県大会や地区大会は、選抜の予選ではない。選抜を主催する日本高野連と毎日新聞によって委嘱された選考委員の裁量によって32校の代表校は決定する。東海地区の選考委員長を務めた鬼嶋一司氏は、選考委員会後の総会や取材で、「個々の能力の差」「投手力の差」「甲子園で勝てるかどうか」などを大垣日大の選出理由に挙げ、「客観的に判断した」と説明した。
しかし、選考委員会から1ヶ月以上が経過しても、今回の代表選考への賛否を巡る議論が続いている。選考への疑問が拭いきれないうえに、日本高野連および毎日新聞が「(選考委員会の)詳細な内容は公開になじまない」という姿勢を貫いているからだろう。
なぜ、聖隷の監督やナインへの丁寧な説明を頑なに拒むのか。これまでも静岡県高野連の渡辺才也(としなり)理事長や鬼嶋委員長ら複数の選考委員に話を聞いてきた私が向かう先は一つしか残されていなかった。昨年12月に8代目の日本高野連会長に就任した寶馨氏(65)のもとである。