2週間後に開幕を迎えるセンバツ甲子園。組み合わせ抽選会も行われるが、それに先立つ選考の是非を巡る議論が今も紛糾している。昨秋の東海大会で準優勝した聖隷クリストファー(静岡)が東海地区の2枠から漏れて落選。その理由の丁寧な説明を日本高等学校野球連盟(日本高野連)は避けているが、本誌・週刊ポストでこの問題を追い続けてきたノンフィクションライター・柳川悠二氏が日本高野連の寶馨(たから・かおる)会長を直撃取材。その取材後、柳川氏に寶会長からメールが送られてきた。その内容とは──。【前後編の後編、前編を読む】
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昨年の師走に日本高野連の8代目会長に就任した寶馨会長(65)への直撃インタビューを終え、ホテルに戻ると会長からメールが届いていた。玄関先での対応となったことを詫びる一文と共に、ふたりが交わした会話のメモが添えられていた。日本高野連の会長が発する言葉の重みを鑑み、不正確な記述になることを危惧しての配慮だろう。
私も御礼と共にいきなり会長宅を訪れた非礼を詫び、《センバツ出場という夢を信じて疑っていなかった聖隷クリストファーのナインが納得して夏に向かえるようにもう一度、日本高野連としての対応を検討していただきたい》という一個人の願いを伝えた。
するとすぐにまた寶会長から返信があった。
「生徒達が“納得して夏に向かえるように”とのことですが、ナインの葛藤に触れたつもりとおっしゃる柳川さんが察せられるに、彼らは今何を望んでいるとお考えでしょうか。また、どのような対応を柳川さんは願っておられるのでしょうか」
「少しお時間をください」という返信の後…
そうした会長の問いに対し、私はすぐに返信することはできなかった。一晩、考えた末、回答を送信した。
《聖隷クリストファーの選手たちは、選考の直後からしばらくは、「聖隷を選ぶべきではないか」という世論の声をインターネットやSNS等で目にし、それを頼りに逆転選出もしくは33校目というようなあわい期待を抱いていたと思われます。しかし、2月4日の毎日新聞の記事や2月10日の日本高野連の最終結論を受けて、もはやその可能性が消失したことに大きな失望感に包まれている。その失望というのは、自分達がなぜ落選したのか――そのシンプルかつ最大の疑問に対して、明確に答えてくれない大人たちへの失望でもあるのではないでしょうか》
静岡県高野連の渡辺才也理事長から聖隷に対する落選に関する説明は、選考委員会後に幾度かあっただけで、その後は途絶えている。選考委員のひとりとして、聖隷の力になれなかった心苦しさが渡辺理事長の中にあるのだろう。2月10日に日本高野連が「詳細な内容は公開になじまない」とする最終回答を全国の高野連に送付した時も、上村監督やナインへの説明は、静岡県高野連の高橋和秀会長が聖隷のグラウンドに日本高野連の回答書を持参して報告した。
1月28日の選考委員会後、聖隷への選考内容の説明や何らかの救済措置を求めて日本高野連と複数回にわたるミーティングを重ねて来た高橋会長は、ナインの前で大粒の涙を落としながら悔恨の想いを言葉にした。
「本当はこんなことあっちゃいけないんだ。何度、(日本高野連に)聞いても、回答は同じだった」
やりきれぬ高橋会長の涙に触れ、思春期にあるナインの心中に芽生えたのは日本高野連への不信ではないか。