東大前刺傷事件や大学入学共通テストでのカンニングなど、受験をめぐるトラブルが相次いでいる。教育現場ではいったい何が起きているのか。教育評論家の尾木直樹氏と脳科学者の茂木健一郎氏が緊急対談した。【全4回の第4回。第1回 第2回 第3回を読む】
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尾木:本当に大事なのは、基礎的な学力は必要かもしれませんが、「大学でこれを学びたい」「将来こういう仕事をしたい」という意欲であって、大学側の「こういう学生が欲しい」という要望とマッチングさせることです。
茂木:それを壊しているのが受験産業です。私は科学者ですから、科学の世界でどういうスキルが求められるかをよく知っています。AIやビッグデータなどで使われる数学やプログラム能力なんて、塾でくだらない受験指導を受けても身につかないですよ。英語力を上げたければ、TOEICなど含め英語のテストを全廃することです。
先日、塾の先生と話していてびっくりしたんですが、小5までに小6のカリキュラムを終わらせて、その後、深掘りするんだって。早く終わったなら先に進めばいいのに。
尾木:ああ、中学で学ぶ内容は、中学受験に必要ないですからね。
茂木:そうそう。本当にくだらない。時間の無駄。
尾木:だから、日本も欧米と同じようにAO入試だけにすればいいんです。
茂木:欧米のAO入試は何時間も、場合によっては何日も面接をして合否を決める。優秀な生徒には大学側がオファーを出すこともある。ペーパーテストの点数で上から取るという日本の入試は、むしろ手抜きです。お金も手間もかけていない。
尾木:欧米に比べて日本は教育に予算をかけていないので、入試にお金や人員を割けないという問題もありますけどね。
茂木:中学受験や塾、予備校という文化が全くない国はあります。アメリカでも聞いたことがない。じゃあ、そういう国と比べて、日本では生きる力やイノベーションを起こす力の高い人たちが出てきているのかといえば、全くそんなことはない。はっきり言いますが、私は塾や予備校はいらないと思う。ゼロでいい。
尾木:受験システムの背景にあるのは、我が子の就職を心配する親の気持ちだと思います。現実問題、学歴による就職差別はありますし、だからこそ親は塾に入れていい大学に行かせようとします。
それは理解できますが、今、就職という発想自体が変わりつつあります。企業に就職するのではなく、学んだことや研究をもとに自ら起業したりして仕事を「創ろう」と考える学生が増えてきています。大きく儲けられはしないけど、収入になるならいいやと。私たちの時代には出てこなかった発想です。そうすると、学歴信仰も変わってくるんじゃないでしょうか。