「ペットに何かあったときは、飼い主が動物病院に連れていかなければなりませんが、搬送する間、何もしないでいては、救える命も救えません。獣医師に引き継ぐまで、できる限りの救命処置を施すことで助かる確率が上がります」と話すのは、日本国際動物救命救急協会代表理事で、ペットの救命救急法の指導・講習を行うサニーカミヤさん(「」内、以下同)だ。
「おもちゃを誤飲し、苦しんでいる愛犬を見て動転した飼い主が、何もできずそのまま死なせてしまったり、詰まったものが出ないなら飲み込ませようと奥に押し込み、自らの手で窒息死させてしまった例もありました。このように、初動のミスや無知からくる悲しい事故を防ぐため、飼い主はペットの救命救急法を身につけることが大切です」
とはいえ突然の出来事に気が動転してしまうのもわかる。
「ペットの異変に際し、迅速に対処するためには、飼い主が落ち着くことが大切です。直立のまま深呼吸するより、両手を上げて深呼吸する方が、早く冷静になれます」
平常心を取り戻したら、すぐに救命処置を。
吐き出そうとするタイミングで叩く
ペットの事故として多いのが「異物誤飲」とそれによる窒息だ。そのとき必要な処置は、ほかの病気の救命にも役立つ。
「詰まらせるものは、おもちゃや犬のガム、りんご、ジャーキー、靴下、食べ物が包まれていた包装紙などさまざまです。のどにものが詰まって吐き出せないと、苦しくて目は見開き、口は紫色になって意識がなくなり、倒れます。
救急の現場でよく見かけるのが、出ないからと異物を指や箸で奥に押し込んだり、両方の後ろ足を持って逆さまに振る人。奥に押し込めば窒息を早めますし、逆さまにして落下させると頸椎骨折の危険があるので、やってはいけません」
コツは自力で吐き出そうとするタイミングで叩くこと。異物除去の具体的な方法を見て行こう。
■背部叩打法
肩甲骨の間を叩いて異物を除去する方法。手順は、中型犬の場合、(1)利き手と反対側の手を前足と後ろ足の間から入れて、軽くあごを支える。(2)ペットの口をのぞき込みながら、肩甲骨の間を叩く。猫・小型犬の場合、腕に前足と後ろ足をまたがらせるように乗せて行う。
■チェストトラスト法
胸部を両側から同時に圧迫して吐き出させる方法。手順は、(1)両手の指を上に向け、ペットの背後から覆いかぶさる。(2)ペットが吐き出そうとするタイミングに合わせ、ペットの口を見ながら手のひら全体で胸部を両側から同時に押す。猫・小型犬には効果的だが、中・大型犬には不向き。
■腹部突き上げ法(ハイムリック法)
上腹部(剣状突起の下)を斜め上方に圧迫し、吐き出させる方法。手順は、(1)利き手と逆の手で拳を作り、親指と人差し指を上腹部にあてる。(2)反対の手で拳を覆い、ペットの背中と飼い主の腹部を付けた姿勢で、吐き出すタイミングに合わせて斜め上方に突き上げる。中・大型犬向け。
■咽頭反射法(ボミティングリアクション)
のどの付け根を横から指で軽く押して吐き出させる方法。手順は、(1)ペットを支えながら、利き手を咽頭部に添える。(2)咽頭のいちばん下あたりを軽く押す。
散歩中に拾い食いをしたときの飲み込み防止や、噛みついたときに引き離す場合などにも使える。
取材・文/鳥居優美 イラスト/尾世ゆう子
※女性セブン2022年3月17日号