「老いを完全に止めることはできませんが、老いを遅らせることはできます。生き生きとした生活を長く維持するためには、最後の活動期とも言える70代をどう過ごすかがカギになる」──こう語るのは、20万部のベストセラーになっている『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)の著者で精神科医の和田秀樹医師である。和田氏が70代の過ごし方について語る。【前後編の前編】
「平均寿命が延びて、いまでは90代まで生きるのが当たり前。しかし、日常生活を制限なく生きていられる健康寿命の延びはそれに追いついておらず、男女とも75歳に届かないのが現実です。30年以上高齢者専門の医療現場に携わってきましたが、70歳の時点ではまだ頭もしっかりしている人が大多数。70代をどう生きるかが、長い老後のあり方を大きく左右するのです」(以下、「」内は和田医師)
例えばコロナでの外出自粛も、50~60代なら「ちょっと足が弱ったな」程度ですむが、70代になるとそうはいかない。
「70歳を迎えると、“使わなくなったとき”の衰えが、それまでよりもひどく出てきます。外出を控えて歩くをやめると本格的に歩行困難になり、人としゃべったりしないことが認知症につながってしまう」
和田氏が一番問題だと指摘するのは脳の前頭葉の萎縮と、男性の場合は男性ホルモンの減少による「意欲の低下」だ。
これらはすでに40代から始まっているが、70代になるといよいよ本格化するという。
とくに「70歳を機に仕事をリタイア」という人は、一気に老化が進む可能性があるというから要注意だ。
「退職して家にこもりがちになると途端に知的活動やコミュニケーションの機会も減り、脳機能の衰えに拍車がかかります。肉体面でも運動機能が落ち込んでしまうため、一番気をつけるタイミングです」
身体がもつ限り、無理のない範囲で働ければベストだが、現実にはそれが難しいケースも多い。だが、それでも「隠居などと考えず、“現役の意識”を持ち続けることが何よりも大切」だと言う。