マニュアル製作専門会社のグレイステクノロジー株式会社が、繰り返された粉飾決算のために2月28日で上場廃止となった。それに先だって公表されていた特別調査委員会の調査報告書により、過大な設定予算を達成させるためのパワハラが横行していたことが明るみに出た。これらの問題は2021年に急逝した創業者である元会長が主導していたことも報告書で認定されていた。同社のように、創業社長や会長によってパワハラが常態化する職場は規模の大小を問わず少なくない。俳人で著作家の日野百草氏が、いまだに幅をきかせている経営者、幹部の社員に対するパワハラ、私物化と侮辱についてレポートする。
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「クライアントに『うちの使えない連中(社員)を教育してやってください』って、信じられませんよ。うちの会社、ヤバいと思いました」
元ベンチャーIT企業の営業マン(30代)の言葉に筆者は「まだそんな経営者がいるのか」とウンザリした。いま彼は大手モバイルゲームの関連会社に転職したが、そのIT企業の社長は自分の会社の社員をバカにする癖があったという。それも他社に向けて、である。
「謙遜や相手企業を持ち上げるためかもしれませんが、逆に印象悪いですよ」
もっともな話で、「では、御社には使えない社員しかいないのですか」と言われかねない。ビジネスの場なので面と向かって言わないにせよ、脳内ではそう思われているかもしれない。実際、社員の教育を満足にしないまま「現場主義」と称して他社との仕事に社員教育を委ねて野に放つ経営者は少なくない。かつて一世を風靡したフリーペーパー発行会社の広告営業がそれだった。それすら迷惑なのに、まるで私物のように社員をクライアントの前で侮辱する経営者や役員、上司がいる。これもまたパワハラ、モラハラの類だろう。
「言われるこっちも悲しいですし、やめて欲しいです」
素朴な感情だがまっとうな思いである。仮にバカにしてはいないとしても、社員に対する過小評価や貶めての謙遜、その放言は企業風土を悪化させる。
「いまだにいますよね。ああいう経営者とか、幹部とか、なんででしょうね」
もちろん、会社や業界それぞれの問題で、全部に当てはまらないと言われればそれまでだが、筆者はこういう会社、エンタメ業界をはじめ何社も知っている。たとえば、
「うちはろくな声優いないですけど、彼女は凄いですよ」
こんなことを言う幹部のいる声優事務所があった。20年以上前の話、幹部といっても小さな事務所で役員もマネージャーも兼ねている、という体だったが、その男は一人を売り込むために事務所の所属声優をバカにした。ありえない感覚で、常識の通用しないその感覚が逆に怖かったことを覚えている。事務所はとっくに潰れ、その「彼女」の表立った仕事歴も2010年前後で途絶えている。別の派遣会社の女性の話、
「派遣会社でもそういう営業はいます。その人を売り込みたい一心なんでしょうけど、ちょっとどうかと思います。社長クラスでもいます」
こういった話は別の中小規模の警備会社で聞いたことがある。そこはもっとひどくて「うちには貧乏人しか来ない」と社内に撒き散らす社長がいたという。そのまま受け取るなら社長は「貧乏人のボス」になってしまうが、自分でおかしいと思わないのだろうか。巨大企業でもあるまいし、最終的に採用を決めたのは社長自身のはずだ。また当然ながら、社員(隊員)がどう思うか考えないのだろうか。ここまでくると「モンスター社長」である。