ロシアによるウクライナ侵攻は、世界情勢を激変させるインパクトをもたらした。なかでもアメリカでは、バイデン大統領の失速とトランプ前大統領の復活という現象が起きている。池上彰氏が、話題の新刊『「トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ』の著者・横田増生氏と語り合った。【全3回の第3回】
安倍・岸田に重なる
横田:日本の政治にも分断が広がっているように感じます。
池上:安倍晋三元首相はトランプの手法を取り入れて国民を敵と味方に分けました。彼は首相の時、秋葉原の都議選応援演説で聴衆から批判され、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と発言した。さすがトランプと仲がいいだけのことはあります。
一方で現職の岸田文雄首相は昨秋の衆院選の応援演説であちこちに行っても絶対に野党を批判しなかった。安倍さんの時はアンチが押しかけ騒動になったけど、アンチ岸田はいません。
横田:なるほど。
池上:衆院選の終盤に安倍さんが「もっと野党の批判をしろ」とアドバイスしても、岸田さんは共産党を軽く批判しただけでした。ただトランプの後にバイデンが国をひとつにまとめようと一生懸命やるけど弱々しくて頼りないのと同様に、岸田さんも安倍さんが進めた分断を修復しようとしているけど、どこか弱々しくて頼りない。バイデンと岸田さんが似たもの同士に見えます。
横田:確かに安倍さんは旗幟鮮明でわかりやすい。アンチがいる一方で安倍熱狂支持者みたいな人もたくさんいて、非常にトランプ的です。しかし政治的な対立相手を敵視し、身内でもちょっと批判したら徹底的にやっつけるのでは民主主義が死んでしまう。
池上:実際に自民党の保守層から岸田さんへの批判が多く聞こえます。アメリカはバイデン支持者とトランプ支持者に分断されますが、日本は自民党内で分断が起きています。それで岸田さんは、安倍さんや高市早苗さんからの批判をすごく気にしています。
だからこそ、岸田さんは今年の夏の参院選が重要です。岸田内閣が圧勝すれば向こう3年は選挙がなく、安倍さんの言うことを聞かず岸田カラーを打ち出せる。だから彼は今年の7月に政治生命を懸けています。
横田:アメリカも11月に中間選挙があります。
池上:岸田さん同様、バイデンも中間選挙に政治生命を懸けるはずです。