1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏が、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。蛯名氏による週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、3月1日という競馬界の新学期を迎え、自身の調教師スタートとこれからついてお届けする。
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3月最初の土日開催では、新人ジョッキーがデビューし、新人調教師の開業厩舎からも何頭か出走があったはずです。しかし、この原稿をまとめている時点の予定では、僕の“調教師デビュー”は少し先になりそうです。
3歳以上の管理馬は藤沢和雄厩舎の素質溢れる馬32頭を「転厩」という形で引き継ぐことになりました。馬にしてみれば、蛯名正義厩舎の開業日がスタートではありません。彼らの競走馬人生はすでに始まっています。僕に課せられた使命は、これまで通りに接すること。それ以上でも以下でもありません。
馬主さんの意向もあり、すべての馬を引き継いだわけではありません。それでも重賞勝ちのあるレイエンダやゴーフォザサミットから、3歳で2勝しているレッドラディエンスやレッドモンレーヴ、バスマティまでとびきりの馬ばかりです。藤沢先生が長い間かけて築き上げてこられた信頼と実績の賜物です。
僕は新人調教師ということで16馬房からのスタート。通常は20馬房ですが、実績や経験を重ねたベテラン調教師になるとさらに増えていきます。現在では矢作芳人厩舎の30馬房が最高です。僕が研修をしていた藤沢和厩舎も28馬房ありました。馬房数が増えれば、その分スタッフの数も増えていきます。
もうすぐレースに出走する馬や、レースを終えたばかりの16頭が美浦トレーニング・センターの「蛯名正義厩舎」にいます。
6月以降にデビューする2歳馬については昨年からセレクトセールや日高のセリに出かけ、馬主さんの意向を受けて僕自身が落札した馬もいます。また馬主さんが欲しかったという馬も引き受けます。クラブからの依頼もあります。昨年の募集時には「新規開業厩舎」となっていたはずです。僕を信頼してくれて預けてくれるし、いい馬が多くて事務手続きなどもスムーズです。