「老後2000万円問題」が世間で大騒ぎになったのは2019年6月のこと。これは厚生労働省が想定したモデル夫婦の場合、公的年金だけでは毎月5万円の赤字となり、定年退職後30年生きると仮定すると夫婦で約2000万円が不足するといったものだった。
あれから2年半。その間、新型コロナ問題などですっかり忘れられた感があるが、問題が解決したわけではない。それどころか、2021年には“年金カット法”も施行され、デフレ下でも現役世代の実質賃金が下がった場合、年金も減らされる。実際、2022年4月からは0.4%減らされ、夫婦二人で21万9593円となる。年金支給額の引き下げは2年連続だ。さらに4月からは「年金制度改正法」が施行され、これまでのルールが大幅に変わる。老後破綻を防ぐためにはどうすればいいのか。『コミック版 やってはいけない老後対策』(小学館刊)の著者である元国税調査官の大村大次郎氏に話を聞いた。
* * *
――「老後2000万円問題」はインパクトあった。現在は多少なりとも改善されているのか。
大村:2020年の総務相統計局のデータによれば、夫婦二人のモデル世帯では、税金や社会保険料などの非消費支出を合わせて、1か月に必要な最低予想生活費は約25万5550円という結果が出ています。一方、公的年金は2022年4月からは前年より0.4%減の21万9593円です。つまり毎月3万5000円ほどが足りない計算です。老後を30年とすると約1260万円が足りないという結論になります。
ただ、生命保険文化センターの調査ではゆとりある生活には36万1000円が必要という結果が出ています。老後ゆとりある生活を送ろうとするならば毎月14万円足りません。そうすると30年間で5040万円必要ということになります。
もちろん、これはあくまでモデル世帯です。男性は20歳から60歳まで働き、女性は専業主婦という設定ですが、現実には即していません。女性の高学歴化が進み、共働きが普通なので、実際にはもう少し楽だと思います。それでも金融広報委員会の2020年の世論調査によれば、60歳代の夫婦二人以上世帯の金融資産保有額の中央値は875万に過ぎません。現役時代から老後対策は行っておかねばならない人が多数ではないでしょうか。
――退職金でカバーはできないのか。
大村:1990年代後半に比べて、1000万円ほど退職金は下がっています。そもそも、退職金は企業の義務ではありませんし、廃止する企業も増えています。それでも退職金が出る場合はもらい方に気をつけたいものです。退職金は大卒22歳で就職して、60歳で退職した場合、38年間働いたことになります。控除額は2060万円なので、退職金がそれ以内ならば、税金は1円もかかりません。税金面から見た場合、一括でもらった方が得になります。
――それでもゆとりある生活を求めるならば、再雇用・再就職が必須だ。しかし、現役時代に比べてかなり月収は下がる人がほとんどだ。
大村:給料が定年前に比べて激減した場合、「高年齢雇用継続基本給付金」という制度があり、最大で15%が補填されます。たとえば、退職時の月収が40万円で再雇用の給料が20万円だった場合、20万円×15%=3万円が20万円に加えて支給されます。この3万円に税金はかかりません。
――退職日によって、有利・不利があると聞いた。
大村:仮に65歳で退職する場合は、年齢計算に関する法律というものがあり、誕生日の前日が65歳になります。64歳で退職すると、雇用保険が5か月分もらえます。つまり、65歳の誕生日の2日前に辞めれば、多いと100万円近くもらえる可能性があるのです。待機期間が3か月ありますが、それでも100万円は大きいです。公的年金受給を8か月遅らせることができます。1か月遅らせるごとに0.7%受給額が増えますから8か月遅らせると、年間で5.6%年金額が増えます。今どき年間5.6%増やせるのはとてもオイシイといえます。