体を蝕む寒さが少しずつ薄れ、新しい季節の訪れを感じる時期だが、会社員の内藤明子さん(50才、仮名)は鏡の前でため息をついている。
「最近暖かくなってきたからタートルネックやセーターはやめて、久しぶりに春らしいVネックのカットソーを着てみました。だけど、なんだかしっくりこない。去年よりも首が太く短くなっているような気がするんです。体重や洋服のサイズは変わっていないのに、一体なぜなんでしょうか……。せっかくいい季節になったのに、気持ちは沈んだままです」
内藤さんと同様の悩みを抱える人は少なくなく、「街中のショーウインドーに映った自分の首が顔と肩の間に埋もれているように見えて愕然とした」「冬の間、ダイエットに励んでやせたはずなのに、首だけがずんぐりと太い」といった嘆きの声がいたるところから聞こえてくる。東京脳神経センター理事長で医師の松井孝嘉さんはこうした“首が太く短くなる症候群”の原因の多くは、スマートフォンにあると断言する。
「体重や体形に変化がないのにもかかわらず、首だけが太く短く、まるで埋もれたようになってしまう理由のほとんどはスマホの使いすぎにあります。画面のサイズが小さなスマホは、どんなふうに持っても目から30cm以上の距離を保つのは難しい。小さなスマホをのぞき込むようにして使っていれば、次第に頭が前に落ち、猫背になりやすく背中は丸まっていきます。私はこれをスマホ漬けで起こる『スマホ首病』と呼んでいます」
こうした“うつむき姿勢”が長時間続くと首の筋肉には大きな負担がかかる。
「人間の頭の重さは約6kgあり、普段は『頸椎』という7本の骨と首まわりの筋肉・靱帯によって支えられています。しかしうつむき姿勢になると、その重さはすべて首の筋肉だけにかかってしまう。この状態が習慣化すれば、大きな負荷がかかった首の筋肉は縮こまったまま、重症化すると金属のような硬さになり固定されてしまいます。そうなると顔を上げても首まわりの筋肉は動かず、常に首が肩に埋もれたような姿に見えてしまうのです」(松井さん・以下同)
実際、コロナ禍におけるスマホの利用時間は増加の一途をたどっており、2021年の調査によれば、1日の平均使用時間は前年と比較して10分近く延びている。こうした生活習慣の変化に加え、女性はそもそも首に負担がかかりやすいと松井さんは話す。
「もともと、女性は男性に比べて筋肉の量が少ないため首にも負担がかかりやすい。料理をするときに包丁を持つ、掃除機をかけるときに床に目線を置くなど、家事はうつむくような姿勢をとることが多いうえ、授乳や乳児を抱く動作も首に負担をかけます。女性の日常生活には首を埋もれさせる動きが多いのです」
見た目の変化は後ろ姿にも。竹谷内医院院長で整形外科医の竹谷内康修さんが言う。
「肩と首の筋肉はつながっているため、首に負担がかかって筋肉が固まれば、肩にも伝わり、力が入って肩甲骨が持ち上がったような状態になります。特に首から肩に張っている筋肉は、元来固まりやすく、首から肩にかけてまるでテントを張ったような、もっさりとした見た目になってしまうのです」