インターネットを介して簡単に出会えるが、コロナ禍を理由に直接会わず、言葉の壁があるため詐欺が見破られにくい。まさに現代社会の落とし穴が生んだ犯罪といえる国際ロマンス詐欺。中高年や既婚者も他人事ではない。ノンフィクションライターの水谷竹秀氏が、その悪質な手口をレポートする。
100万円、400万円、500万円、900万円、1000万円……。日を追うごとに追加される送金額を足していくと、わずか2週間のうちに、仮想通貨の取引に費やされた総額は4600万円に上った。その後に出金できなくなり、国際ロマンス詐欺だと気づいたときにはもう、手遅れだった。
「ショックで立てなくなりました。これからどうやって生きていこう、どうやってお金を返していこうと」
都内のマンションの一室でそう嘆息するのは、ネット通販などを営む会社経営者、町田美穂さん(40代・仮名)。昨年6月に被害に遭って以降、失意の日々が続く。
「悲しいという気持ちを通り越しています。いっそのことコロナに感染して死んだ方が楽になれると思い、ワクチン接種を一時的に拒否したこともありました」(美穂さん)
国際ロマンス詐欺とは、マッチングアプリなどで出会った外国人の異性と親しくなり、仮想通貨への投資話を持ち掛けられるなどで、金銭を詐取される特殊詐欺の一種だ。
相手のアカウントのプロフィール写真は端整な顔立ちの欧米系が多いが、最近はアジア系も増えている。写真は実在する人物だが、犯人がインターネット上から無断で使用している別人で、被害者が実際にやり取りしている相手ではない。つまりは仮面をかぶった“詐欺師”なのだ。
この国境を超えた「愛のささやき」による詐欺被害がいま、コロナ禍で急増している。国民生活センターによると、同様の被害の相談件数は2019年度の5件から2020年度には84件に跳ね上がり、昨年は170件にも上った。被害者は警察に直接相談する場合も多いため、この数字は氷山の一角に過ぎない。増加の背景には、コロナ禍によって対面での食事の場が減少したことがあるという。