【著者インタビュー】朝比奈あすかさん/『ななみの海』/双葉社/1760円
【本の内容】
高校2年生のななみは、ダンス部に所属し、《快活でおしゃれなみえきょん、勝気でリーダー気質の瀬奈、成績優秀お嬢様のズミ》と仲がいい。3人と違うのはななみが「家の子」ではなく、「寮の子」であること。名称に「寮」がつく児童養護施設に暮らしている。寮の門限やスマホの利用制限に理不尽を感じながらも、医者になるために勉強もがんばっていた。両親が亡くなった後、ななみを育てたおばあちゃんの《ななみは、たまたまの巡り合わせでこういうことになってしまっただけで、施設の子とは違う。馬鹿にされちゃアいけない》という言葉が理由だったがー大人と子供、友達、部活、恋愛、受験、そして将来……悩み苦しみながらも人生の扉を開く子供たちの姿を活写した青春小説。
私はくりかえし忘れることを自分に許していた
保護者による児童の虐待死があとをたたない。
「ニュースを見るたび、打ちのめされて、やりきれなくて。なんとかしなきゃと思うのに、しばらくすると忘れてしまう。あるとき、私はくりかえし忘れることを自分に許しているって気づいたんです」(朝比奈さん・以下同)
朝比奈さんに言われて、ハッとする。確かにそのとおりで、虐待死が報じられるたびに憤り、その子の死を悼むけれど、なかなか自分の行動に結びつかない。
「この瞬間も殴られている子がいるかもしれないんだなって、考える時間が増えていきました。野田市(千葉県)の虐待死事件のあと、児童相談所を責める声がすごく強かったんですね。でも、私たちは、その人たちにすごく頼っている面があるのに。24時間、365日子どもと向き合っている人が現実にいて、その人たちをもっと支えるにはどうしたらいいのか。子どもたちが引き取られていった施設ではどんな暮らしをして、どういう人が周りにいるのか知りたいと編集者と話していたら、じゃあ取材してみませんか、ということになりました」
3つの施設を見学できることになり、職員から話も聞いた。取材したのは2020年2月から3月にかけてで、もう少し取りかかるのが遅ければ、コロナ感染の拡大で、取材そのものができなかったかもしれなかった。
「最初は施設の職員を主人公にすることも考えたんですけど、17、18歳の女の子の視点で世の中を見る小説を書きたいと、だんだん考えがまとまっていきました。
日本では基本的に18歳になると施設を出て、自立しなければいけないんです。少しずつ変わりつつあるんですが、苦しい思いをしてなんとか生き延びた子どもが、後ろ盾も帰れる場所もないまま、18歳で世の中に出ていかなければならないなんて、どんな気持ちがするだろうと思います」