だんだんと暖かくなってきたこの季節。穏やかな空気の中で読書を楽しんでみてはいかがでしょうか。この春に読みたい4冊の新刊を紹介します。「2022年本屋大賞」ノミネート作品から4作品をピックアップしました。
『夜が明ける』
西加奈子/新潮社/2035円
フィンランドの異形の俳優アキ・マケライネンが好きな「俺」。高校で生き写しのアキこと深沢暁と出会い、ビデオを渡すと内気なアキも僕かと思ったと興奮する。アキは劇団へ、「俺」はテレビ番組制作会社へ。貧困、虐待、過重労働、マチズモにパワハラ。社会に対する著者の怒りが小説内では一転慈雨になり、2人の青年の肩を優しく濡らす。ただならぬ熱量で書かれた感動作。
『六人の嘘つきな大学生』
浅倉秋成/KADOKAWA/1760円
人気企業の最終選考に残った「男子4+女子2」の6人。全員採用もあるはずだったが、大震災の影響で採用は1名に。それも合議で選抜しろと言う。当日投票制が提案されるが、各人の裏の顔を暴いた6通の告発状が出現し……。前半は内定者が出るまでの密室神経戦、後半では8年後に合格者が落ちた5人を訪ねて告発の真偽と犯人を確かめる。最後まで気が抜けない青春ミステリー。
『赤と青とエスキース』
青山美智子/PHP研究所/1650円
交換留学生の「私」はパーティでメルボルン育ちの日本人ブーと知り合う。ブーは言う。みんなここを竜宮城だと思ってるんだ。それでいて「私」に帰国までの期間限定で恋人同士にならないかと言ってくる。合意した「私」は帰国直前にブーの友人の絵のモデルになるが……。エスキースとは下絵のこと。話者を変えながら一枚の絵画が時を繋いでいく。温かな読後感が著者の持ち味。
『残月記』
小田雅久仁/双葉社/1815円
月にまつわる異世界ファンタジー3編。圧倒的な質量に呑まれる表題作は、近未来の宇野冬芽が主人公。指定感染症の「月昂者」である冬芽は延命効果薬が与えられることから、時の独裁者が催す救国闘技会の剣闘士となる。悲しい生い立ち、母に似たルカとの出会い、処刑、生き延びて円空のように彫り物の旅を続ける冬芽。慟哭の、その先を月光に刻む物語宇宙。す、す、凄すぎる。
「2022年本屋大賞」ノミネート作品は上記4作品のほかに『スモールワールズ』(一穂ミチ)、『硝子の塔の殺人』(知念実希人)、『黒牢城』(米澤穂信)、『正欲』(朝井リョウ)、『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)、『星を掬う』(町田そのこ)の全10作品。大賞発表は4月6日。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年3月24日号