超接戦となった韓国大統領選挙(3月9日投開票)を制し、次期大統領に決まった保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏。歴代の保守政党は親米路線を敷いてきたこともあり、尹氏も3月10日にバイデン米大統領と電話会談し、訪米要請に「近く会いたい」と応じるなど、早速親米ムードを演出している。しかし、その姿勢は国民と温度差がある。韓国世論では「反米ムード」が日増しに高まっているからだ。元朝日新聞社ソウル特派員の前川惠司氏が語る。
「ロシアのウクライナ侵攻に対するバイデン大統領の弱腰な姿勢を見て、韓国内で『今の韓米関係で北朝鮮問題に対応できるのか』『いざとなったらアメリカは頼りにならないのでないか』との危機感が大きくなっています。今回の韓国大統領選では、尹氏が与党にもっと大差を付けて勝つと見られていましたが、蓋を開けてみればわずか0.7ポイント差での勝利でした。私は接戦となった要因の一つは、親米を打ち出す尹氏に対して不安視する層の票が、対立候補に流れたためだと考えています」
仮に尹氏が世論の声に押されて、親米路線から方向転換することになれば、今度は中国へ接近する可能性が高くなると指摘されている。しかし、「親中路線」を打ち出すにしても、一筋縄ではいかない事情がある。韓国・漢陽女子大学助教授の平井敏晴氏が語る。
「2月4日の北京五輪の開会式での国旗掲揚セレモニーで、中国の少数民族『朝鮮族』代表の女性がチョゴリ姿で登場したことをきっかけに、韓国では反中感情が高まっているのです。尹氏と次期大統領を争った李在明氏も『文化の盗用』と中国を激しく非難していました」
親米か親中か──尹氏はこの二項対立に悩むことになるかもしれない。コリア・レポート編集長の辺真一氏が語る。
「韓国は本来、親米反共国家ですから、尹政権は中国かアメリカという二択の時は、基本的にはアメリカを取るでしょう。しかし、政治信条がまったくない尹氏は、これから先、ちょっとしたことをきっかけにどちらにでも振れる可能性があります。そうして漂流する韓国に対し、日本はその時々の韓国の状況を冷静に見極めて、対韓外交を考えていく必要があります」