3月14日、俳優の宝田明さんが肺炎のため都内の病院で息を引き取った。享年87。自身の戦争体験を後世に伝えることをライフワークにしていた宝田さんは、連日、凄惨なニュースが伝えられるウクライナの戦況に心を痛めていた。亡くなる3日前の3月11日、宝田さんは個人事務所の応接室で、『女性セブン』に壮絶な戦争体験を明かしていた。
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4月1日から公開される映画『世の中にたえて桜のなかりせば』(三宅伸行監督)は、俳優生活68周年を迎えた宝田さんが企画立案から関わった意欲作。W主演の相手には、宝田さんより70才年下で人気グループ「乃木坂46」に所属する岩本蓮加(18才)が選ばれた。
「こんなに若い子と共演するのは40年ぐらい前の松田聖子さん以来じゃないかな(笑い)。岩本さんとは孫ほど年が離れていますが、知的な女性で度胸もあって、ほとんどNGを出さない。きっと大女優になりますよ」(宝田さん、以下同)
映画で二人が演じるのは、さまざまな境遇にある顧客の手助けをする「終活アドバイザー」。タイトルは平安時代の歌人、在原業平が詠んだ桜の歌だ。
「『世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし』と続きます。いまの言葉で言えば『もし桜がなかったなら、どんなに春をのどかに過ごせるだろう』という意味でしょうか。逆説的な意味で、それぐらい桜は日本人の心を惹きつけてやみません。私にも特別な思いがあり、四年ほど前からずっと桜を題材にした映画を撮りたいと考えていました」
映画のテーマは“終活”だ。インタビューが行われたのは3月11日。宝田さんは矍鑠(かくしゃく)としたたたずまいで、しっかりした口調でこう語った。
「自分はまだまだ働かなくてはならない身なので、終活のことはそれほど意識していないんです。撮りたい映画のアイディアはたくさんあるし、次回作の構想もあるんですけどね。ただ、これからも長年、続けてきた戦争体験を後世に伝えていくことだけは使命感を持って続けていきたいですね」
1934年生まれの宝田さんは、父親が勤務した満鉄(南満洲鉄道)の社宅があったハルビンで幼少期を過ごし、11才の時に現地で終戦を迎えた。
「当時は『アジアのパリ』と称される美しい街でした。メインストリートにアール・ヌーボーの瀟洒な建物が並び、学校も病院も立派なものばかり。ところが、忘れもしない1945年の8月9日。長崎に原爆が投下された日に、日ソ中立条約を破ってソ連軍が国境を超えて満洲に攻め込んできたのです。この世のものとは思えないような爆音と共に、火柱がいくつも立ち上がり、ハルビンの街が一瞬で壊滅状態になってしまいました」