卒業式を思うとき、そこには必ず音楽があった。卒業式で斉唱した歌、J-POPや合唱曲……どれも流れてくると、なぜだかじーんとする名曲ぞろい。時代とともに移り変わる卒業ソングを振り返る。
「卒業ソングには、もともと2つの系統がありました。1つが、明治の頃から歌い継がれてきた『仰げば尊し』や『蛍の光』などの式典の中で歌う曲。もう1つは卒業シーズンに流れる卒業をテーマとしたヒット曲で、さまざまな歌が登場しています」
そう話すのは、音楽評論家で尚美学園大学副学長の富澤一誠さん(70才)。
「前者の“式典で歌う曲”の代表格である『蛍の光』は、1881年に歌詞がつけられた。また、『仰げば尊し』は1884年に作られ、小学唱歌集に収録されています。戦後、映画『二十四の瞳』(高峰秀子主演/1954年公開)の劇中で流れ、人々の記憶に強い印象を残したのです」(富澤さん・以下同)
一方、後者の“ヒット曲”の方は、世相や時流とともにさまざまな変遷を見せる。
「なかでも卒業ソングとして最初に浸透したのが、海援隊の『贈る言葉』でしょう。ドラマ『3年B組金八先生』の主題歌としてお茶の間に登場して以降、それ以前の曲も“卒業ソング”として脚光を浴びることが多くなりました」
もともと、喜びを爆発させる歓喜一色の欧米の卒業式と違い、日本の卒業式は別れと旅立ちの感情が複雑に交錯し、晴れの舞台の特別な記念日なのに寂しさや悲しみを引きずり、涙する人も多い。
「だからこそ、卒業ソングは日本人の美学に合うのです。昔は市販のポップスと学校で歌う歌が明確に分かれていましたが、ポップスシーンのヒット曲が教科書に載るようになると、次第に両者の距離は近づいていきました」
『高校三年生』から始まった
戦後ポップスに、卒業をテーマとした歌が登場したのは1960年代からだ。
「1963年に発売された舟木一夫の『高校三年生』が、やはり卒業ソングの最初でしょう。当時、ぼくはまだ小学生で、サビの部分を『小学六年生〜』と替え歌にしてよく歌っていました(笑い)。ペギー葉山の『学生時代』はちょっと大人の世界を感じさせましたね」
その歌詞は、当時の小中学生の胸にも響いたのだ。
「1970年代になると、かぐや姫やイルカが歌った『なごり雪』や、荒井由実が作ってバンバンが歌った『「いちご白書」をもう一度』などが登場します。こうした曲の背景には、1970年安保の学生運動の名残りと敗北感があり、ぼくら世代にはリアルタイムでした。『なごり雪』を作った伊勢正三とは同い年なんです。」