日本初の女性総理候補と目される政治家たちの本音を聞く連続インタビュー。第2弾は、かつて「安倍晋三・元首相の秘蔵っ子」「タカ派のアイドル」と呼ばれた稲田朋美・元防衛相(63)である。「週刊ポスト」の新シリーズ《女性総理、誕生!》から飛び出したスピンアウト企画。3月18・25日号の第1弾(高市早苗氏)に続き、ノンフィクションライターの常井健一氏が斬り込んだ。【全4回の第3回。第1回から読む】
──稲田さんが“少数者”に目が行くようになったのは、2017年に防衛相を事実上更迭されたことも関係している?
「そうですね。キャリア的にも王道の真ん中を歩いて順調だったのに、いきなり挫折したんです。それで、世の中からはみ出た人の疎外感とか、生きづらさを感じている人の気持ちが他人事から自分事になったんですよ。それが大きかったです。すごく辛かったですけど、強くもなったし、自分を反省する機会にもなったし、共感できる幅が広がったかな。だから、あの辞任は私にとって悪いことではなかったと前向きにとらえています」
──今の稲田さんは憑き物が取れたようで、すっきりしていますね。
「そう見えますか?」
──南スーダンPKO日報問題(2017年)で追及されていた頃は、防衛省の対応のまずさが目に余りました。しかし、第1弾(3月18・25日号)で高市さんが指摘しましたが、渦中の当事者としては「女性だから狙い撃ちにされた」という意識もありましたか?
「同じ閣僚でも男と女では扱いが違いますよね。だってマスコミ的には面白いと思うんです。発言はまだしも、服装や外見にしても、批判の的にされます。ある時、すごくラフな格好していたことを指摘されたけど、『スーツを着ていったらよかったんだ』、『あそこで着替えればよかったんだ』と、今になって考えたらそう思います。でも、当時はそんな余裕はなかった。海外出張に行く飛行機にサングラスをかけて乗り込んだことも批判されましたが、深夜便だから化粧をしていなかったんですよ。そういう女性ならではの事情まで汲み取ってもらえません。私が男性だったら、あそこまで注目されますか?」
──確かに。過去の週刊誌報道を見ると、ティファニー(サングラス)、フランクミュラー(時計)、ヴァレンティノ(バッグ)、ノーネーム(靴)など持ち物のブランドまで書かれています。私も女性の派手な装いには目が行くほうです。
「思い出すのは、初めて選挙に出た時。派閥の先輩の世耕弘成先生から注意されたんですよ。有権者の前では反感買うからそれも、それも、それも外してくださいねって。私は46歳という遅めの出馬だったので、政治家になる前までは普通に弁護士をしていて、ふたりの子どもを育てる関西のおっかさんだったから、人によく思われたいとか考えなかったし、自分が好きなものを身につけていただけなんです。だけど、それではよくないんでしょうね」
古今東西、政界の女性たちの立ち振る舞いには常に厳しい視線が注がれ、ルッキズムの餌食となりやすい。
英保守党の大物政治家で、人気小説家でもあるジェフリー・アーチャーの名著『めざせダウニング街10番地』には、次のようなくだりがある。
首相を目指す主人公の男性が婚約者と一緒に戸別訪問をすることになり、婚約者は場所柄をわきまえた地味なスーツを着て現われた。それを見た主人公は、彼女がどうすれば選挙区内の中年婦人のお眼鏡にかなうのかを理解しているとわかり、ホッとする――。
日本の現状は、この小説で描かれた60年代の英国とさほど変わらない。女性が議員バッジをつける側になろうと、ひたすら空気を読み、目線を低くし、カドが立たないように気遣いながら、周りに溶け込まねばならない。逸脱した途端、ゴシップの標的になる。
──防衛相時代の衆院予算委員会(2016年9月30日)で、涙を流しました。あの時も「涙は女の武器か?」と揶揄され、炎上しました。
「もともと涙もろいんですけど、感情が溢れてくると男性って大声で怒鳴ったりするけど、女性って涙でしょ。自然に出てくるけど、いろんな涙がありますよね。嬉し涙だったり哀し涙だったり、感動の涙だったり」