作品が重層的であればあるほど視聴者のロイヤリティは増すものだ。今期の朝ドラは明らかにその傾向がある。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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怒濤の回収劇に突入したNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。過去と現在が交錯し、久しぶりに見た懐かしい顔に感激する一方で、やや混乱も。
3月17日の回では、喫茶店「「Dippermouth Blues(ディッパーマウス・ブルース)」店主の定一さんが登場したと思ったら、それは息子の健一さんでした。演じているのが定一役だった世良公則さん。父親と息子とを上手に演じ分けた世良さんに拍手喝采です。
このドラマではこれまでにも「親と子を同じ人が演じるパターン」が出てきました。たとえば尾上菊之助さんが「モモケン」こと桃山剣之介の初代と二代目を演じたり、堀部圭亮さんが荒物屋「あかにし」の店主・赤螺吉兵衛と息子の親子の二役で笑いをとったり。何とも遊び心のある演出です。
いや、演出や配役の遊びだけではなく、このドラマが持つ深いテーマ--巡っていく円のようなもの(制作統括・堀之内礼二郎氏)を表しているようです。
その一方で、安子に恋した若い勇ちゃんを演じて爽やかな味を出していた村上虹郎さんが、年老いたら何と目黒祐樹さんになって出てきたり。村上さんの再登場を期待したこちらとしては一瞬「がくっ」ときたけれど、いやいやそう悪くもない。勇ちゃんって何となくこんなオジサンになりそうだ。目黒さんの演技のさじ加減が見事でした。
そしていよいよ安子(上白石萌音)が娘・るい(深津絵里)を一人残して渡米した謎が解かれる山場を迎えていく。ワクワクしつつも、謎が解かれてしまったら物語に幕が引かれてしまうとロスにおびえる日々。
はてさて安子はどのようにるいと再会するのか。という物語の筋を追うのも興味深いのですが、もう一つ、このドラマには不思議に関心をかきたてる点があります。
「そういえばあの人どうしているのかな」と過去の脇役たちがやたらに気になる点です。ささやかなエピソードがふと思い起こされたり顔が浮かんだり。今元気だろうか、何をしているのだろうかと妙に懐かしい。