臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、徹底的な情報統制を行うロシアの「プロバガンダ」について。
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プロパガンダが一国としてどのように行われ、展開されていくのか、こんなにはっきり目にすることもないだろう。フリルのついた水色の服に、同じ色のリボンを三つ編みのおさげ髪に編み込んでいた、12才のソフィア・コメンコさんが出演していた動画を見て、そう思った。
彼女が出演していたのは、ロシア教育省が3月3日、オンラインで公開した教育動画。司会者と歴史専門家はロシアのウクライナ侵攻について、「ウクライナ危機が始まったのは最近のことではない」、「ロシア派はこの問題を平穏に納めようと努力し、ミンスク合意などを欧州の国々に働きかけた。しかし、合意で戦争は阻止できなかった」と、戦争が起きたのはヨーロッパ側がロシアの停戦の求めに応じなかったからと説明。「私たちはウクライナを平和にしたい。軍事的発展を阻止しロシアに対する脅威をなくしたい」と正当性を強調し、分かりやすい言葉で彼女に説明していた。
さらに司会者はソフィアさんに、SNSのフェイクニュースについても話した。ミサイルが幼稚園に当たったこと、戦車が破壊されたことなど、「その情報をSNSに投稿する前に信憑性を確かめるべきだ。あなたが見ているものを分析して、批判的に物事を見てください」と諭した。投稿される情報はフェイクだから信じるな!と頭ごなしに命じるのではなく、自分で分析して物事を見るように教えるとは、さすが子供向け教育動画だけのことはある。
今の子供たちはネット世代だ。情報統制したとしても、ネットを通じて多くの情報にアクセスできるため、ロシアがフェイクだと主張する情報ばかりを知らないうちに集めてしまう可能性もある。「フィルターバブル現象」だ。インターネット活動家のイーライ・パリサー氏によって名付けられたこの現象は、検索エンジンやSNSなど、インターネット上での利用履歴によって、自分の見たい情報しか見えなくなるという。
まだ主義主張などが固まっていないだろう少年少女たちには、「SNSを使うな、動画を見るな、情報を信じるな」と禁止するより、どんな情報にも懐疑心を持って見るように教え、自分の目で間違い探しをさせたほうが効果的で反感も反抗心も持たれない。一方的に教え込むよりも、自分自身でプーチン大統領や政権の正当性を確かめさせる方が、プロパガンダとしては成功しやすいように感じる。