ロシアによるウクライナ侵攻は、ウクライナ軍による必死の抵抗が続いている。一方、SNSを中心とした情報戦においては、ウクライナがロシアを圧倒しており、KGB出身のプーチン大統領は思わぬ苦戦に焦っているようだ。それを指揮するのが、ミハイロ・フョードロフ副首相兼デジタル転換相(31)。台湾のデジタル担当大臣に35歳という若さで就任して話題となったオードリー・タン氏になぞらえて“ウクライナのオードリー・タン”とも評されるフョードロフ氏について、国際ジャーナリストの山田敏弘氏が解説する(文中一部敬称略)。
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ロシアのウクライナ侵攻が始まって20日以上になる。戦闘はまだ続いており、ここからどのような形でこの戦争が終焉するのかはわからない。
ただ、はっきりしていることは、この戦争が本格的にSNSで情報戦が繰り広げられた戦いとして記憶されることになるということだ。さまざまな情報が、SNSを使って世界に発信され、戦況にも影響を及ぼしている。
ウクライナ政府でSNSを使った情報戦を率いるのは、フョードロフ副首相兼デジタル転換相である。戦闘のための武器ではなくSNSで戦った政府首脳として、フョードロフの名も語り継がれていくはずだ。
まずフョードロフの存在が広く知られるようになったのは、ロシアによるウクライナ侵攻が開始されてから数日後の、2月27日のことだ。フョードロフはこんなツイートを投稿した。
「われわれはIT軍を立ち上げる。デジタル才能が必要だ」
そこからフョードロフのオンライン上での戦いが始まった。ウクライナのサイバー民兵たちを率いてサイバー攻撃を指揮すると同時に、世界の著名人に直接SNSでメッセージを送る。
例えば、イーロン・マスクだ。テスラの創業者でもあるマスクは、現在、スターリンクと呼ばれる世界の至る所で高速インターネット接続を可能にする衛星ネットワークシステムを立ち上げている。このスターリンクを使うことで、ウクライナで使われている従来のインターネット網がロシアによって破壊されても、ウクライナでインターネットを継続して利用でき、コミュニケーションも遮断される心配はない。
プーチン大統領が侵攻後すぐに計画していた作戦として、ウクライナ国内のコミュニケーションシステムの破壊、というものがあったと報告されているが、それを踏まえて、フョードロフはマスクにツイッターで「ウクライナにスターリンクを送ってください」と直談判した。
するとマスクがそれに反応。「スターリンクのサービスをウクライナでスタートさせた。通信機器を送る」──そして48時間以内に、フョードロフは実際にウクライナに到着した数多くのスターリンクを写真で公開した。とんでもない時代である。