約50年で1万5000枚以上の日本酒ラベルを集めたという比治山大学現代文化学部教授の石田信夫氏。百花繚乱のラベル意匠は昭和40年代に最高潮に達し、当時の古き良きデザインを「昭和クラシック」と名付けている石田氏。日本酒ラベルの魅力はどこにあるのだろうか。石田氏に話を聞いた。
* * *
日本酒のラベルを集めています。学生の頃からなので50年近いですね。
きっかけは伝統的なデザインに惹かれたからですが、ちょうど蔵元の数が急減し始めたころで、「今のうちにせめてラベルで存在の証を残したい」という使命感にかられました。
一升瓶を水につけてラベルをきれいに剥がして整理することから始まって、蔵元を訪ねたり、同好の士と意見交換する中で出会ったのが、現在のラベルの原型である明治初期の樽貼りです。浮世絵のような木版多色刷りの、色鮮やかな意匠と迫力のあるひげ文字に、すっかり魅了されました。
今はラベルの発祥について調べています。ほとんど資料がない中、コロナ前に三重県四日市で版木などをみつけたのは収穫でした。当時の輸送事情も考え合わせ「ラベルの発祥は三重」との仮説を立てました。決定的な証拠を求めて、これからも調査を続けます。
【プロフィール】
石田信夫(いしだ・のぶお)/1952年生まれ、広島県出身。1974年に中国新聞社に入社。現在は比治山大学現代文化学部教授。「ラベリスト」と呼ばれる。
撮影/平郡政宏
※週刊ポスト2022年4月1日号