《ロックダウンになりました。美容院も休みだから困っちゃう。でも(中略)つかの間、芝生に出て散策するのはいい》。オーストラリア・シドニーの芝生の上で海をバックにカメラに向かってしゃべりかける西郷輝彦さん(享年75)。これは2021年8月、YouTubeの『西郷輝彦公式チャンネル』にアップされた動画の冒頭だ。
同じく1960年代に活躍した橋幸夫(78才)、舟木一夫(77才)の2人とともに「御三家」と称された西郷さん。2021年4月にステージ4の去勢抵抗性前立腺がんと骨への転移を公表し、その後すぐに国内未承認の最先端治療を受けるためシドニーに渡り、その治療経過を自ら発信していたのだ。『ニッポン男性アイドル史』の著者で社会学者・文筆家の太田省一さんはいう。
「西郷さんは末期がんの病状を動画で明るく公開することでひとりの人間として生きる姿を最後まで、ポジティブに見せていた。前向きな姿はアイドルの最大の魅力です。それを西郷さんはファンに向かって最後まで発信されていました」(太田さん)
2021年9月に帰国し、国内の病院に入院して治療を続けていたが病には克てなかった。しかしその姿は、多くのファンに勇気と活力を与えた。
「10代でデビューしたときからの御三家ファンですが、年を重ねるとともに、介護や病気などさまざまなことを経験しました。そのたびに3人が、同様のアクシデントに対峙しながらも、輝きを失わない姿に励まされてきました。特に橋さんが認知症の母の介護生活を綴った著書『お母さんは宇宙人』や、西郷さんが動画の中で奥さまと明るくがんと向き合う様子には涙しながらも、背中を押されました」(70代女性)
太田さんは、御三家の輝きがいつまでも衰えないのはファンにとって生涯のパートナーとなっているからだと語る。
「かつて多くのアイドルは同年代の若者が一時的に熱狂し、大人になるにつれて卒業するものでした。しかしいまは永遠にその活動を応援し続ける、いわばファンにとって長い人生を通しての“相棒”のような存在になっています」(太田さん・以下同)