吉本興業が運営するお笑いを学べる学校、通称「NSC(New Star Creation)」は、圧倒的多数の芸人を輩出してきたことで知られる。1年間で次世代のお笑いスターを育成する、そのシステムはどのようなものか。
いくつもの芸能事務所がお笑い学校を設立している近年、生徒獲得の競争は熾烈になりつつある。偉大な芸人を送り出してきたNSCでさえも、生徒数が大きく増えることなく推移。そこで、NSCは2021年度から講師やカリキュラムを刷新し、事務方のスタッフも増員。生徒一人ひとりの個性に合わせ万全のサポートをしていくための体制を整えた。
「今のNSCは、授業料以上のものが学べる」とうらやましがるのは、お笑いコンビ「囲碁将棋」の文田大介氏。卒業した1年先輩が現役生のケアをするアシスタント制度は以前から導入されていたが、文田氏は2021年に新設された「ベテランアシスタント」枠で運営に関わる。
卒業したてのアシスタントは、大御所芸人の講師と生徒の間を繋ぐにはまだ遠慮がち。より円滑なコミュニケーションをとれるよう、ある程度の芸人経験を積んだ卒業生がベテランアシスタントとして講師に付き添うようになったのだ。生徒からは「サインはいつ頃用意したらいい?」といった、大御所には尋ねづらい小さな質問もドシドシ受けているという。
文田氏がNSC東京校に通っていたのは、軍隊系のコワモテな校風で知られていた18年前。
「夏になると生徒の半数が辞めてました。今は誰も辞めないですけどね。生徒は僕のライバルでもあるけれど、一所懸命な生徒を見ていると僕も燃えるんです。将来芸人として活躍し、僕も一緒に舞台に立てたら、うれしくなります。
陸上などと違い、お笑いの世界は誰でも芸人になれる可能性があるんです。圧倒的に下手で面白くない人でも、一周まわって、下手過ぎてウケちゃうことがある。だから、芸人を目指す人には『10年続けてみて』と言ってます。10年やっていれば、絶対1回はチャンスが回ってくるから」
生徒の誰が将来のスターになるかは分からない。1学年で400人を超える全生徒の顔と名前が一致するほど密に接してきた、NSC運営側のスタッフたちも同意見だ。スタッフのひとりはこう語る。
「『この子なら、こういう売れ方するかな?』『この部分をもっと見てあげたほうがいい?』と、一人ひとりに向き合うことが大事。
同時に、M-1グランプリやキングオブコントなどコンテスト対策の授業を加え、神保町よしもと漫才劇場の出演を賭けたオーディションにも現役生のうちから参加できるようになりました。視野を広げ、総合的に生徒の様々な可能性を引き出していきたい」
【プロフィール】
文田大介(ふみた・だいすけ)/高校時代の同級生だった根建太一氏とともに漫才コンビ「囲碁将棋」を結成し、現在は大宮ラクーンよしもと劇場をホームとして活躍。NSC東京校9期出身、在学中にM-1グランプリ2回戦進出。
取材・文/山本真紀 撮影/古川章
※週刊ポスト2022年4月1日号