欧米諸国の議会で積極的にオンライン演説を行うウクライナのゼレンスキー大統領(44才)が、3月23日、日本の国会でも支援やロシアへの経済制裁強化を訴えた。圧倒的な軍事力を誇るロシア軍に徹底抗戦を誓うゼレンスキー氏の姿は、日本人の胸を打った。
《ウクライナを救うための活動をもっとしよう》
《ロシアへの経済制裁をもっと強めよう》
そんな声が日本でもあふれている。だがこの演説が、大きなリスクを招きかねないとの見方を示す専門家もいる。
ゼレンスキー氏はこれまでイギリス議会での演説を皮切りに、カナダ、アメリカ、ドイツとNATO加盟国を中心に演説を行ってきた。加盟国以外で演説の場を設けたのはイスラエルに次いで2国目だ。ロシアのプーチン大統領(69才)研究の第一人者で、筑波大学教授の中村逸郎さんは、この点を危惧する。
「プーチン氏から見れば、日本は戦闘中の敵国の大統領に国会で演説させたわけで、ゼレンスキー氏を讃えていると捉えられかねません。
現在、経済制裁によってロシアのスーパーからは食料品や日用雑貨が姿を消すなど、日に日に市民生活が厳しくなっています。かつてないほど苛烈な経済制裁を科した西側諸国に、プーチン氏は怒り心頭。日本はその一員と見られ、怒りの矛先は確実に日本にも向いているのに、演説はその火に油を注ぐことになるでしょう」
ゼレンスキー氏の国会演説前から、ロシアにとって日本は“要注意国”の1つになっていた。3月7日、ロシアは自国への経済制裁を行う「非友好国リスト」を公表。アメリカ、EU全加盟国などとともに日本も含まれた。
その翌日、日本政府はウクライナの要請に基づき、防弾チョッキのほか、ヘルメットや防寒服など防衛装備品の提供に踏み切った。こうした装備の海外移転は、本来は「防衛装備移転三原則」により規制されるものだが、政府は運用方針を変更してウクライナに無償供与することを決めた。
「日本政府の対応を受けてか、プーチン氏はすぐに日本に向けて動きをみせました。3月10日、北方領土の択捉島でミサイルを使った軍事演習を始めた。11日にはロシア海軍の艦艇10隻が津軽海峡を通過して、15日にも4隻が通過しました。ウクライナに向けて兵士や武器を輸送しているようですが、日本への威嚇も兼ねているとみられています」(中村さん)
さらには、ゼレンスキー氏による国会演説の2日前の21日、ロシア外務省は、日本との平和条約締結交渉を中断すると発表。北方領土への旧島民の墓参りなどを目的とした日本とのビザなし交流の停止や、北方領土での日本側との共同経済活動に関する協議から撤退する意向を表明した。