ある投稿ではウクライナの空をロシアの爆撃機が低空飛行し、街に爆撃音が響き渡る。別の投稿では住宅地を戦車が進み、地下シェルターで市民が毛布にくるまる──。
若者のダンス動画やメイク動画などが人気の動画配信サービスTikTokに突如として「戦争」が登場した。ツイッターやフェイスブック、YouTubeなど、あらゆるコンテンツで戦争に関する話題が広まっている。桜美林大学リベラルアーツ学群教授の平和博さんが指摘する。
「SNSは国境がなく、世界中とリアルタイムでつながれるツールです。友達と交流したり、歌や踊りを共有するメディアだったSNSの中に、突如、戦争の動画や写真が入ってきたことに衝撃を受けて戸惑ったユーザーも多いでしょう」(平さん)
2月24日に本格的に開始されたロシアのウクライナ侵攻。ロシア軍の攻撃によってすでに女性や子供など340万人以上が国外へ避難したが、ウクライナ軍と残った市民は持ちこたえている。いま、私たちが見ているのは「ハイブリッド戦争」と呼ばれる21世紀型の戦争だ。
「一般的に、戦争は軍隊が大砲や戦車などで相手国に攻め込むイメージですが、ハイブリッド戦争は、通常の軍隊に加えてSNSによる情報戦やサイバー攻撃を仕掛けます。
具体的には、フェイクニュース(偽情報やデマ)を広げることで相手を混乱させたり、敵兵の戦闘意欲を下げたりする。フェイクニュースやサイバー攻撃、武力攻撃を連携して相手方に攻め込んでいくのがハイブリッド戦争です」(平さん)
情報技術は時代とともに進化して世界に影響を与えた。たとえば中世に活版印刷技術が発展すると誰でも自由に聖書を解釈できるようになり、宗教戦争が勃発した。第二次世界大戦では、ラジオがプロパガンダを率先。
そして現在、軍事力では圧倒的に劣るウクライナがロシアを相手に善戦しているのは、SNSを駆使したハイブリッド戦争を効果的に仕掛けているからとされる。
多くの人々のスマホの中に飛び込んできた戦争は、一体何を意味するのか。
民間人がSNSを武器に立ち向かう
《私はキエフにいる。隠れていない。何も怖くない》
国民にそう語りかける動画をインスタグラムにアップしたのは、ウクライナのゼレンスキー大統領。その当時、同大統領が国外に退避するとの情報が流れていたため、国のリーダーが首都にとどまると宣言するとウクライナ国民や兵士の士気は大いに上がった。
以降、ゼレンスキー氏はフォロワーが1600万人を超えるインスタグラム、同550万人以上のツイッター、同260万人以上のフェイスブックを存分に駆使して、キエフから発信を続けている(3月22日現在)。
メッセージの多くは英語でも投稿され、国際社会に訴える。作家・批評家の西村幸祐さんはこう解説する。