40歳を過ぎたころから、若いときとは種類の違う感情ストレスに、振り回されていませんか? しかもコロナ禍でこれまでの“当たり前”がそうでなくなり、何が正解なのか迷う毎日。ついつい「もう無理~!」が口癖になっていませんか。
法学、語学、社会心理学、脳科学などの知識を駆使し、現代人のコミュニケーションとストレスの問題を研究する明治大学教授の堀田秀吾さんのもとにも、「もう無理!」な声が届いているそうです。
「コロナ以降は多くの人がニュースに関心を持つようになり、メディアに接する機会がこれまで以上に増えました。政府の対策や政策、感染者数や医療現場のひっ迫といったネガティブなニュースに触れることで、自分までネガティブな思考に引っ張られることも出てきました」
とくに、まじめで堅実な人生を歩んできた大人の女性こそ、ネガティブな思考の ワナにハマりやすい傾向が。なぜなら、不安や心配という感情は、本能的に正しい感情だからです。
「かつて人間が狩猟民族として生活していた頃は、生存競争を生き抜くことがすべて。常に警戒心を持ち、心配と不安を感じていたほうがすぐに危険を回避できました。また、夜は暗闇から敵が襲ってくるときに備えて、警戒心が高まる時間。つまり、不安を呼び起こす時間でした。私たちが夜になると急に不安や寂しさを感じやすくなるのも、人間が身につけた防衛本能のひとつなのです」(堀田教授)
誰かに放ったネガティブな言葉は、あなたの脳にもダメージを与える
そうか、寝ようとしてベッドに入ると、1日の出来事が走馬燈のようによみがえり、ああしたらよかった、あの行動は失敗だった、とぐるぐる考える“ひとり反省会”を繰り広げてしまうのは、このせいだったのか……!
しかし、いつまでも反省会を続けて元気を失っているわけにはいきません。
「気を付けてほしいのは、ネガティブな考え方は脳にも悪影響を与える、ということ。ネガティブな感情が起こると、脳はポジティブな状態に戻そうと頑張るので、余計なリソースを使ってしまい、注意力を低下させるのです」と堀田教授も言っています。さらに怖いのは、「脳は主語を区別できないとよく言われます。たとえば、あなたがモヤる感情にまかせて誰かにネガティブな言葉を投げつけた場合、ダメージはその相手だけではなく、あなたの脳にまで与えることになってしまうのです」(堀田教授)
そう、脳と言葉の関係、脳と何気ないふるまいや行動の関係を、侮ってはいけないのです! とりわけ自信を失いがちな “クヨクヨ”の一例について、堀田教授にかんたんな手放し方を教えてもらいました。
「言霊」は科学的に正しかった!?
「50歳の会社員です。このところ注意力が散漫で、集中力も続きません。職場ではミスを連発してしまい、そのたびに“自分なんかもうダメ”“どうせ次もうまくいかない”とネガティブなことばかり口にして、落ち込みの深みにハマる日々です……」
堀田教授:そのネガティブワードを封印して、ポジティブワードに言い換えてください。たとえば、「すばらしい!」「さすが!」「最高!」「できる」――などに、です。そう、あえて自分に応援言葉をかけてみるんです。なぜなら、米国ブルックヘブン国立研究所の研究で、ポジティブな言葉を発するだけで、状況は変わっていないのに、脳を活性化することが実証されたんです。
ポジティブな言葉を使うメリットはほかにもあります。南デンマーク大学のヴェイグター氏らの研究では、ポジティブな言葉を使っていると、痛みや調子の悪さへの耐性が高まることがわかりました。氏らの実験では、83人の被験者を3つのグループに分けて種類の異なる説明文を読んでもらいました。
【1】ポジティブな言葉による説明文
【2】ネガティブな言葉による説明文
【3】ニュートラル的な説明文(実験における統制群)
それぞれを読んでもらったうえで、被験者にスクワットをしてもらったところ、【1】のポジティブな説明文を読んだグループは大腿筋の耐性が22%アップした一方で、【2】のネガティブな説明文を読んだグループでは4%もダウンし、痛覚過敏まで引き起こしていました。つまり、ネガティブな言葉を使うと、よりネガティブな気持ちになってしまい、痛みを感じやすくなることが実証されたんです。
上記は科学的に証明された方法のひとつですが、もっと知りたい方は、堀田教授の最新著書『もう無理、と思ったらやってみて モヤモヤ・クヨクヨを手放す科学的に証明された方法』をおすすめします。即実行できるだけでなく、すべてハーバード大学、東京大学、大阪大学、ケンブリッジ大学などの名だたる研究機関で実証された、エビデンスを持つものなので試す価値あり、です。
本質的な解決に向けて動くのは、時間も覚悟も要します。まずはその前に、そのネガティブ感情、堀田教授が教えるやり方で、サクッと手放してみませんか?
●文/小学館生活編集室
【プロフィール】
堀田秀吾(ほった・しゅうご)/言語学者(法言語学、心理言語学)明治大学教授/1968年、熊本県生まれ。シカゴ大学言語学部博士課程修了。ヨーク大学オズグッドホール・ロースクール修士課程修了、同博士課程単位取得退学。専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、法言語学、コミュニケーション論。言葉とコミュニケーションをテーマに、言語学から脳科学まで、さまざまな分野を融合した研究を展開。熱血指導と画期的な授業スタイルが支持され、「明治一受けたい授業」にも選出される。テレビ番組『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)の元レギュラーコメンテーター、『世界一受けたい授業』(日本テレビ系)などにも出演。著書に『図解ストレス解消大全』(SBクリエイティブ)、『科学的に元気になる方法集めました』(文響社)、『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』(サンクチュアリ出版)、『科学的に自分を思い通りに動かすセルフコントロール大全』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、共著に『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』(クロスメディア・パブリッシング)など多数。