国際情報

ウクライナ侵攻の裏で進む世界食料争奪戦 激安を賛美する日本の危うさ

2009年2月、「サハリン2」のLNG基地視察する左から、オランダのマリア・ファンデルフーフェン経済相、メドベージェフ・ロシア大統領、アンドルー英王子、麻生太郎首相(すべて当時、EPA=時事)

2009年2月、「サハリン2」のLNG基地視察する左から、オランダのマリア・ファンデルフーフェン経済相、メドベージェフ・ロシア大統領、アンドルー英王子、麻生太郎首相(すべて当時、EPA=時事)

 ロシアがウクライナ侵攻を始めて1か月が経った。この紛争に対して、どう向き合い、どのような態度をとるのか世界中が決断をせまられ、日本もロシアへの経済制裁に参加、ただし中国はのらりくらりとどの陣営にも与しないままだ。ロシアへの経済制裁をめぐり、貿易の世界では何が起きているのか、中国はこれから何を狙っているとみられるのか、俳人で著作家の日野百草氏が現役商社マンに聞いた。

 * * *
「この戦争、最終的に勝つのは中国かもしれませんよ」

 ロシアがウクライナを侵略してしばらく、専門商社に勤めるA氏(40代)と連絡をとる。この時点で開戦から半月が経過、短期間で首都キエフを制圧するというロシア、プーチン大統領の目論見は外れた。それはともかくとして、なぜ中華人民共和国(以下、中国)が勝つのか。

「欧米も日本も、世界の多くがロシアに対して制裁を実施しましたが、商売的には損を覚悟の正義です。ロシアの資源を中心に欧米はロシア経済に依存していた。それをごっそり中国が手に入れる、実際、中国系商社はEU諸国が手を引いた分野で活発に取り引きしています」

 日本が中国に貿易戦争で負け続け、いわゆる「買い負け」を繰り返して久しいが、中国は世界中の資源を、食料を買い漁っている。主要穀物の大半は、まず中国との交渉になっている。理由は簡単で金だ。高く買ってくれる国に売る、高く買うほうが「買い勝つ」、ごくシンプルな貿易戦争の構図である。

「人権を気にしない国だから強いですね」

 自分たちの国が発信源のコロナ禍でも気にせず自粛ムードの世界の中で買い漁った。アルゼンチンなどあまりに主食の牛肉を中国に売ってしまうために輸出の規制を強化した。それでもアルゼンチンの酪農家、企業からすれば安い国内業者や一般国民に売るより高く買ってくれる中国に売る。残念ながら日本でも農業に限らずその傾向が生まれ始めている。2021年には日本の農林水産物および食品の年間輸出額は1兆円を超えた。その中でも中華人民共和国(香港含む)への輸出は4割を超える。

「戦争が起きても気にしない。私たちとの取引でも金の話に終始します。情とか関係性なんて気にしない、徹底しています」

 それが中国という国と企業のメンタリティとすれば、ある意味グローバリズム経済にはうってつけである。だからこそ、わずかの間に世界経済の主役に躍り出た。

「ロシアもウクライナも、日本企業としては取引先として拡大している最中でした。国情はどちらも不安定で西側の商慣習にも不慣れな国ですが、国策込みで天然ガス開発は成果が出ていたはずです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

「ミスタープロ野球」として広く国民に親しまれた長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
《“ミスター”長嶋茂雄さん逝去》次女・三奈が小走りで…看病で見せていた“父娘の絆”「楽しそうにしている父を見るのが私はすごくうれしくて」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ犯から殺人犯に》「生きてたら、こっちの主張もせんと」八田與一容疑者の祖父が明かしていた”事件当日の様子”「コロナ後遺症でうまく動けず…」
NEWSポストセブン
中居正広氏の兄が複雑な胸の内を明かした
「本人にとって大事な時期だから…」中居正広氏の実兄が明かした“愛する弟との現在のやりとり”《フジテレビ問題で反撃》
NEWSポストセブン
デフサッカー男子日本代表が異例の活動中止に…(時事通信フォト)
【デフリンピック半年前の騒動】デフサッカー男子日本代表が異例の活動中止「監督は聴覚障害に理解があるはずでしたが……」 ろう者サッカー協会が調査へ
NEWSポストセブン
長嶋茂雄・巨人軍終身名誉監督からのメッセージ(時事通信フォト)
《長嶋茂雄さんが89歳で逝去》20年に及んだ壮絶リハビリ生活、亡き妻との出会いの場で聖火ランナーを務め「最高の人生」に
NEWSポストセブン
中居正広氏の兄が複雑な胸の内を明かした
「兄として、あれが本当にあったことだとは思えない」中居正広氏の“捨て身の反撃”に実兄が抱く「想い」と、“雲隠れ状態”の中居氏を繋ぐ「家族の絆」
NEWSポストセブン
今年3月、日本支社を設立していたカニエ・ウェスト(時事通信フォト)
《カニエ・ウェストが日本支社を設立していた》妻の“ほぼ丸出し”スペイン観光に地元住人が恐怖…来日時に“ギリギリ”を攻める可能性
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《子どもの性別は明かさず》小室眞子さんの第一子出産に宮内庁は“類例を見ない発表”、守谷絢子さんとの差は 辛酸なめ子氏「合意を得るためのやり取りに時間がかかったのでは」
NEWSポストセブン
現在、闘病中の西川史子(写真は2009年)
《「ありがとう」を最後に途絶えたLINE》脳出血でリハビリ中の西川史子、クリニックの同僚が明かした当時の様子「以前のような感じでは…」前を向く静かな暮らし
NEWSポストセブン
指定暴力団山口組総本部(時事通信フォト)
六代目山口組の新人事、SNSに流れた「序列情報」 いまだ消えない「名誉職」に就任した幹部 による「院政説」
NEWSポストセブン
元女子バレーボール日本代表の木村沙織(Instagramより)
《“水着姿”公開の自由奔放なSNSで話題》結婚9年目の夫とラブラブ生活の元バレーボール選手の木村沙織、新ビジネスも好調「愛息とのランチに同行した身長20センチ差妹」の家族愛
NEWSポストセブン
宮城野親方
何が元横綱・白鵬を「退職」に追い込んだのか 一門内の親しい親方からも距離置かれ、協会内で孤立 「八角理事長は“辞めたい者は辞めればいい”で退職届受理の方向へ」
NEWSポストセブン