北朝鮮政府の外貨獲得のために中国上海市の繊維工場に派遣されていた北朝鮮労働者20人らが行方不明になり、北朝鮮当局が中国政府に調査協力を要請していることが明らかになった。
労働者を管理する北朝鮮政府直属の監督官も消息不明になっていることから、計画的に逃亡したとみて、上海の警察は捜査している。北朝鮮政府から中国に派遣されている労働者が失踪するケースは極めて異例だ。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。
上海の繊維工場のオーナーが異変に気が付いたのは2月上旬のこと。勤務時間になっても北朝鮮人女性20人が工場に姿を現さないことから、オーナーは彼女らの監督官の携帯電話に連絡したが、応答がなかった。このため、彼女らの寮を確認したところ、もぬけの殻だったという。
寮の部屋からは、荷物などもなくなっており、「集団脱走ではないか」とオーナーは疑っているという。
北朝鮮は、外貨を稼ぐために中国やロシアに労働者を送り込んでいるが、海外に派遣された労働者が逃げ出すことはまれだ。というのも、北朝鮮当局はそもそも国家や朝鮮労働党に忠実な市民を選んで海外に送り出しており、その労働者も秘密警察の国家保衛省の人員によって厳しく監視されているからだ。
また、海外で逃亡すれば、脱北した犯罪者との烙印を押され、北朝鮮国内に住む家族や親族に影響が及ぶことから、海外派遣労働者の脱走などはまれで、特に中国の場合は待遇が良いので、ほとんど例がなかった。
上海の工場のオーナーは労働者の失踪事件を直ちに北京の北朝鮮大使館に連絡したという。大使館では中国の警察に協力を要請し、主に国境に向かう鉄道の駅を監視して追跡を試みている。
上海の警察当局者はRFAに対して「彼女らが失踪してから、すでに1か月が経過しており、北朝鮮当局はこのグループが亡命した可能性が高いとみているようだ。これだけ探して見つからないのは、彼女らは中国人ガイドの手引きで、海外に逃亡しており、いまごろは東南アジアで、韓国入国のチャンスをうかがっているのではないか」と話しているという。
米国務省の「2021年人身売買報告書」によると、中国で働く北朝鮮人は約8万人と推定されている。