放送開始から何かと話題になっている三谷幸喜脚本のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。前回の放送で、歴史に残る正妻と妾のバトル「亀の前事件」が予告されネットでは話題沸騰。三谷氏はどんな脚本を書くのか? そして“女のバトル”を押し出す狙いとは? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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27日に放送される大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)第12話のタイトルは「亀の前事件」。これは源頼朝(大泉洋)の正室・北条政子(小池栄子)と愛妾・亀(江口のりこ)の騒動であり、次週予告でタイトルが発表されたとき、ネット上が沸きました。
その理由は、中世が舞台の大河ドラマで「女の戦い」をここまでフィーチャーするのは異例だから。亀の前事件は、ナレーションで済ませるか、あるいはスルー。扱うとしても、ワンシーン程度がスタンダードなところでしょう。
しかし、脚本家の三谷幸喜さんは大切な1話の多くを使い、タイトルにするくらいしっかり扱うことを選びました。ちなみにこのとき、主人公の北条義時(小栗旬)は基本的に蚊帳の外。ところが「歴史上の大きな出来事をじっくり描いてほしい」という傾向が強い大河ドラマファンを怒らせるどころか、期待の声が挙がっていることに驚かされます。
なぜ「亀の前事件」はここまでフィーチャーされ、どんな見どころがあるのでしょうか。
中世も令和も変わらない嫉妬と怒り
第12話の予告映像は、「頼朝の浮気がバレた」というナレーションからスタート。妊娠中に発覚したこともあって北条政子は、「許せない。あの薄い顔の女ね」「このままでは腹の虫がおさまりません」と鬼の形相を見せています。さらに家の焼け跡を見た頼朝が、「ここまでするか?」と驚く様子や、継母・りく(宮沢りえ)の「とがめるべきは、夫のふしだら!」と火に油を注ぐようなシーンなどもありました。
浮気に対する嫉妬や怒り、夫より相手の女に向けられる強烈な嫌悪。「妻が妊娠中の浮気」というシチュエーションも含めて、中世も令和の今も変わらないところがあるだけに、三谷さんにとっては「面白い人間ドラマを見せる上でおいしい事件」なのでしょう。また、三谷さんが「原作のつもりで書いている」と語る『吾妻鏡』に「亀の前事件」が書かれていたことが、これほどフィーチャーされるベースになっています。
ここまで三谷さんは、「中世の言葉では視聴者が理解しづらい」という観点から、あえてわかりやすい現在の言葉でセリフを書いてきました。「亀の前事件」は現在の言葉を使うことで、より政子たちの感情が視聴者に伝わりやすいシーンになるため、盛り上がりが期待できそうです。
さらに、その当事者を小池栄子さん、江口のりこさん、宮沢りえさんが演じることも「亀の前事件」をこれほどフィーチャーする理由の1つでしょう。名女優たちがこの騒動をどう演じるのか。歴史マニアの三谷さんが、彼女たちをイメージして楽しみながらあて書きしている姿が浮かんでくるようです。