中国で一番人気のあるハリウッド・スターといえば、文句なくキアヌ・リーブス(57)だ。昨年11月には最新作「マトリックス レザレクションズ」が中国で上映を許可されたが、これは米中摩擦のなかで異例のことだった。中国で上映される外国映画は年間30本程度しかなく、マトリックスの前3作も許可されていない。北京冬季五輪のためだとか、キアヌの祖母が中国系だからだとか取り沙汰されたが、いずれにしても同シリーズはもともと海賊版で大人気だったから、中国の映画ファンは歓喜した。
しかし、このたびそのマトリックスが「抹殺」された。劇場上映は中止され、動画配信サービスからも突然消えたのだ。同時にキアヌ主演作品19本の配信も止まったが、その露骨な手のひら返しの理由は明らかだ。ハリウッド関係者は口を揃えて「キアヌが3月3日、ニューヨークで開かれたチベット文化を守るチャリティ・イベントに参加したため」と言う。
このイベントは、ダライ・ラマ14世の信奉者である著名な作曲家、フィリップ・グラスやリチャード・ギアらが1987年に創設した「チベット・ハウス・ニューヨーク」主催の音楽祭。「フリー・チベット」運動にとって重要な軍資金集めだ。今年もパティ・スミス、トレイ・アナスタシオ、ジェイソン・イズベル、イギー・ポップら錚々たるスターが出演した。ロシアによるウクライナ侵攻の真っただ中だけに、ウクライナ国民への支援と連帯のメッセージも相次ぎ、「ウクライナもチベットも大国によって領土と文化が踏みにじられている。許しがたい侵略だ」と、ロシアを支援する中国への批判も一層高まった。
キアヌはそこで、ビートニク・カルチャーの教祖的存在だったジャック・ケルアック、アレン・ギンズバーグ、ニール・キャサディ3人が作った詩「ひな菊を摘め」(Pull My Daisy)を情熱的に朗読した。難解な詩だが、そこには反権力、反体制、反戦の静かな決意が流れている。ただし、これまでキアヌはこの運動に参加したことはなかったし、チベット支持を公言したこともない。中国ビジネスで大儲けする映画配給元のワーナー・ブラザーズからプレッシャーがあったことは想像に難くない。
一体、キアヌに何が起きたのか。本人と親しい記者はこう語る。