ワクチンの3回目接種が進むなか、早くも4回目接種の検討を始めた岸田文雄首相。一方で、重篤な副反応に対するセーフティネットの整備は遅々として進んでいない。
「誰のための救済制度なのか。その議論が深まるきっかけになればと願っています」
3月19日、週刊ポスト記者にそう電話を寄せたのは、広島県東広島市に住む岡本裕二さん(63)。岡本さんの長男・裕之さん(享年30)は、昨年8月22日にモデルナ製ワクチンの2回目接種を終えた3日後に急死した。
「息子は接種翌日に発熱で仕事を休みましたが、薬で熱が下がったので2日目はいつも通り出社した。帰宅後もいつもと変わらない様子で過ごし就寝したのですが、翌朝に起きてこないので私の妻が見に行くと、すでに体が冷たく固くなって死んでいました」(岡本さん)
酒もタバコもやらず、毎日2km走っていた若い息子の突然死。岡本さんは2回目のワクチン接種が死を招いたのだと確信したが、警察の司法解剖の結果、裕之さんの死因は「不詳」とされた。
厚生労働省の専門部会でも裕之さんのケースが検討されたが、「ワクチン接種と死亡との因果関係は評価できない」と結論づけられた。
真相解明を望む岡本さんが一縷の望みをかけたのが、国の「予防接種健康被害救済制度」だ。
予防接種と健康被害に一定の因果関係が否定できないと認められれば医療費などが支給される制度で、新型コロナのワクチンで死亡した場合は4420万円の死亡一時金などが支給される。申請は本人や家族などが市町村に行ない、厚労省の審査会が審査する。
岡本さんは書類を整えて、居住地である東広島市の窓口に提出したが、行政の態度は「救済」とはほど遠いものだった。
「市の担当者は『この状態で申請しても無理。病理検査の結果を待ちたい』と言うばかり。病理検査は広島大が行なっていますが、結果が出るまで長くて2年と言われています。私は息子の死の真相を知りたいだけなんです。私と同じように家族が死亡したり、重い後遺症に苦しんだりして救済を申請した約20人は、行政の怠慢に精神的に追いつめられ、『もう諦めた』と口を揃えています」(岡本さん)
医師が報告するワクチンの副反応疑いの死亡事例は1571件(厚労省発表 3月4日時点)だが、予防接種健康被害救済制度における死亡事例の救済申請は67件(2月24日時点)。うち5件が審査会にかけられたがすべて評価は保留で、救済が適用された事例はいまだ0件のままだ。