韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領が、3月28日、初めて会談した。大統領選から19日後の初会談はこれまでで最も遅いという。ことあるごとに対決姿勢を鮮明にしてきた両者だが、最近、大きな話題となったのが「大統領執務室の移転」を巡る対立だ。
韓国大統領の官邸と執務室がある青瓦台は、ソウル特別市鍾路区の北岳山の麓にあり、もともとは李氏朝鮮の王宮である景福宮があった場所とされ、日本統治時代は朝鮮総督府が置かれていた。人の出入りが厳しく制限された“奥の院”であり、韓国大統領の権威を象徴する場所である。
尹氏は大統領選で公約として、国民との距離を縮めるため、「大統領執務室の移転」を掲げていた。当初は光化門(鍾路区の中央官庁が集まる地域)へ移転するとしていたが、警備上の問題を指摘され、現在は国防部の庁舎がある龍山に移す計画に転じている。それに対し、文氏は当初、移転により空白期間ができ、安保上の問題が生じるとして反対し、執務室移転にかかる費用486億ウォン(約49億1000万円)の支出にストップをかけた。
しかし、大統領を退任する文氏にとって、執務室移転は関係のない事案のはずである。『韓国「反日フェイク」の病理学』などの著書がある韓国人作家の崔碩栄氏はこういう。
「現政権の反発は理解しがたい。政府関係者はもちろん、前秘書室長の任鍾晳(イム・ジョンソク)氏もSNSで『尹氏は青瓦台に入るべきだ』と主張している。緊急時の対応に空白が生じることを理由にしているが、2017年5月に北朝鮮がミサイルを打ち上げたにもかかわらず、文大統領は休暇で地方に出かけたので、まるで説得力がない」
文氏が、反対する理由として“北朝鮮の脅威”を口にし始めたことに、違和感を覚える人も多いという。
3月23日に発表された韓国銀行(中央銀行)の総裁人事でも、現政権は尹氏に相談せずに決め、尹氏は「発表の10分前に伝えられた」と不満を露わにしている。
「これまでも、左派から右派、あるいは右派から左派へ、政権が引き継がれるときに、在任中の重要資料を渡さないとか、一定期間公開できないように指定するとか、非協力的な態度を取ることはありましたが、これほど目立つ対立が起きたことは記憶にないですね」(崔氏)