「生涯現役時代」といえば聞こえがいいが、60歳を超えて仕事にやりがいを感じる人は少ないはずだ。どうしたら年齢を重ねても輝く働き方ができるのか。著書『人生の経営』を上梓したばかりの、元ソニーCEO・出井伸之氏(84)が唱える「会社にも定年にもしばられない生き方」に耳を傾けよう。
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リタイアするつもりはない
最近、「還暦からの生き方」や「老後の心構え」を説く本が多いようです。リタイア後の余生をどう過ごしていくか、それはそれで大きな問題だとは思いますが、僕の関心はそこにはありません。まだまだリタイアするつもりがないからです。
僕は84歳になりましたが、いまだに現役ビジネスマンです。体調が続く限りは、仕事を続けていきたいと思っています。
そして多くの人たちと話していて思うのは、みな本当はできる限り仕事をやり続けたいと考えているのではないかということです。
でも働ける場所がない、今の時代に対応できるスキルがない、そう思い込んでいる人も多いようです。果たして本当にそうでしょうか。今までしっかりとしたキャリアを積み重ねたビジネスマンであれば、きっと輝ける場所は見つかるはずだ、僕はそう考えます。
僕は1960年に、当時はまだ小さなベンチャー企業だったソニーに入社し、1995年に社長に就任しました。井深大さんと盛田昭夫さんという2人の創業者がいて、そのあとを継いだ岩間和夫さんは「第三の創業者」と言われる方でしたし、次の大賀典雄さんにも「自分までが創業者世代」という自負がおありだった。
僕は事実上、ソニーで最初の新卒入社のサラリーマン経営者だったわけです。1999年に社長兼CEO(最高経営責任者)になり、翌年には会長兼CEOとなりましたが、2005年に退任しました。
おかげさまで古巣のソニーは今、業績がよく、2022年3月期の連結営業利益は1兆円に届く勢いです。一時期、ソニーの業績が低迷した頃には批判の声もありましたが、今では僕のところにも「すごいですね」「よかったですね」という声や、「出井さんの改革がようやく実を結んだんですね」といった嬉しい評価をいただきます。しかし、僕はすでにソニーを離れた身です。
CEOを退任して、それまでの“すべてはソニーのために”という「ソニーファースト」から解き放たれたと思いました。目の前の視野が一気に広がり、新しい視点で日本の将来に貢献できることはないかと考えました。ソニーの肩書きを捨てて、新しいチャレンジをしようと思ったんです。