国立研究開発法人の理化学研究所の労働組合などが、約600人の研究者が雇い止めとなる可能性があるとして、文部科学相と厚生労働相あてに要望書を提出した。近年は、日本人のノーベル賞受賞者がまるで口をそろえたように、日本の科学力の低迷と研究環境の悪化を訴えてきたが、歯止めどころか拍車がかかっているような出来事だ。俳人で著作家の日野百草氏が、中国人技術者が日本の研究者や技術者の環境をどう見ているのか聞いた。
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「日本は優秀な人がとても安いと思います。なぜ辞めさせるのですか」
筆者の旧知の中国人技術者から話を伺う。ITエンジニアでゲーム開発にも精通している。中国人のエリートならごく当たり前だが4ヶ国語を話せて日本語も堪能だ。しかし本稿、それでも文章化する際にそのままでは差し障るため逐次こちらで改めている。
「優秀でない人が安いのは当たり前ですが、日本は優秀な人も安い」
話は理化学研究所(理研)の研究系職員が組合などの試算で2022年度末に600人雇い止めになる件、労組が理研および文部科学相と厚生労働相に撤回を求めているが先行きは厳しい。理研に限らず、日本が国際的に見ても研究者、技術者、クリエイターといった立場を冷遇し続けていることは周知の事実だ。
「とくに日本人は安い。技術も経験もあるのに安くて、何にもない若い人を欲しがりますね、不思議です」
彼はずっと不思議だったと話す。これは中国人だけでなく海外の技術者、クリエイターも筆者の聞く限りは日本に対して同様の感想だ。筆者は昨年『アニメやゲーム業界「日本人は安くて助かります」その由々しき事態』で主にエンタメを中心にした日本人クリエイターの賃金の安さとその実態を書いたが、これは技術者や研究者にも当てはまる。
「優秀な人が安かったり辞めさせられたり。とても不思議だと思っています」
なぜ辞めさせるのか、これは筆者も不思議で、せっかく育てた技術者や研究者をいとも簡単に辞めさせる、辞めさせなくとも専門技術と関係ない部門に追いやり、辞めるように仕向ける。これは30年上がらない平均賃金と平行して理系専門職に繰り返されてきた。「そんなことはない」という組織の方々は幸せな話で結構だが、現実には日本の名だたる大手企業や研究施設、大学といった「技術者・研究者こそ宝」の現場に続く現実である。そして新卒至上主義もまた「新陳代謝」の名のもとに経験豊富なベテランを追いやり続けた。
「不思議なのです。欲張りな中国なら放っておきません。それだけの技術や研究の蓄積が一個人にあるのは、まさに宝です」