各地の花見スポットでは、桜の見ごろを迎え始めるこの時期。晴れた空の下や、ほんのり温かい部屋の中で、ゆっくりと読書を楽しむはいかがでしょうか。おすすめの新刊4冊を紹介します。
『春のこわいもの』/川上未映子/新潮社/1760円
「わたし」や「僕」の一人称、「あなた」の二人称、書簡体や三人称など様々な文体の6編。ギャラ飲みに応募し“整形してから来いよ”と罵倒される2人の女性の「あなたの鼻がもう少し高ければ」、親友と同居してそれぞれの夢を追った日々とその後を描く「娘について」、性交に取り憑かれた老女の「花瓶」など。著者の描く“女の闇”はすぐれてリアル。ヒリヒリと反応してしまう。
『地方メディアの逆襲』/松本創/ちくま新書/946円
予算や人手の少なさにめげず、性根のすわった調査報道を続ける人々に焦点を当てる。イージス・アショア候補地選定の杜撰さを突いた秋田魁新報、SNS上の真っ赤なデマにファクトチェックで対抗した琉球新報。東海テレビのひじ方宏史(ひじかたこうじ、『さよならテレビ』)や毎日放送の斉加尚代(さいかひさよ、『教育と愛国』/この5月に映画公開)など。疲弊する地方にもまだ光はあると希望をもらう。
『恋する検事はわきまえない』/直島翔/小学館/1760円
警察小説大賞受賞作『転がる検事に苔むさず』の続編が早くも登場。久我周平の前任地である小倉での事件、東京区検から鹿児島地検に異動になってさっそく吠える倉沢ひとみ、初の特捜女性検事で、弁護士事務所の理事長に転身した常磐春子の閃き(表題作)、前作で重傷を負った有村巡査のその後など4話。無法者なのに妙に法に明るい魚河岸健ちゃんの正体にもご注目を!
『十津川警部 猫と死体はタンゴ鉄道に乗って』西村京太郎/光文社文庫/682円
東京下町、谷中にあった猫カフェが全焼。オーナーで元大衆演劇の役者坂口三太郎が焼死体で発見され、バイトで居着いていた若い野中弥生も姿を消す。この店を贔屓にしていた十津川班の西本刑事は坂口と弥生には因縁があったはずと、弥生の故郷丹後へおもむくが……。土地の歴史や伝説に悲恋や強欲が絡まる。トラベルミステリーというジャンルを開拓した著者の逝去を悼む。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年4月7・14日号