ロシアによるウクライナ侵攻から1か月以上が過ぎた。このまま戦争が長引けば西側諸国の経済制裁の効果が本格化し、ロシア国内世論を抑えきれずにプーチン政権は追い込まれるという見方もある。そうしたなかで、プーチン氏が最も恐れているものの一つに「女性たちの声」があるという。3月8日、プーチン氏は「国際女性デー」に参加し、そのなかでウクライナ侵攻について、女性団体を意識したとされるこんな発言があった。
「皆さんが最愛の人を心配していることは理解しています。徴兵された兵士たちは軍事行動に参加していないし、これからも参加することはないと強調します」
これは、徴兵された兵士の母親たちによる「ロシア兵士の母の会」に向けたものとされる。ウクライナ侵攻に、徴兵された若者たちが派遣されているのではないかとの指摘に対して、戦闘に参加しているのは職業軍人のみだと説明することで、女性たちから反戦ムードが高まるのを回避する狙いがあったとみられている。
「1994年の第一次チェチェン紛争では、同会の母親たちが政府を激しく非難して反戦ムードを高めました。今回も子を案ずる女性たちの声が大きな力になっていく可能性があります。国内のメディア統制を厳しくしていることの狙いもこれに関係しているでしょう」(国際政治に詳しいジャーナリスト)
振り返ると、プーチン氏にはこれまでも女性を意識した発言がたびたびみられる。国際女性デーには毎年、国内の女性に向けた祝辞を送っている。2019年には騎馬隊の女性警察官たちの訓練施設を訪問し、「あなたたちの寛大さは本当に無限だ」などと激励。2018年には30人の女性起業家たちと会談し、「男女の権利が平等になることの重要性」を説いた上で女性の権利向上を約束している。
毎年欠かさず国際女性デーに参加するといった姿勢は、一見するとプーチン氏が「フェミニスト」であるようにも映るが、どう理解すればいいのか。プーチン氏の一連の言動について、ロシア政治が専門の筑波大学・中村逸郎教授はこう解説する。
「プーチン氏の女性観は保守的なロシア正教からの影響が強く窺えます。女性は男性に尽くし、良き妻、良き母であれという家父長制に基づく思想です。そういう視点から見るとプーチン氏が国際女性デーに参加しているのは、“1年に1回だけの罪滅ぼし”に見えます。ロシアの保守的な男性たちのなかには、家事を全くせず妻を顧みない人もいます。そういう人たちが3月8日だけ花束を贈ったり、食事を作ったりとその日だけの優しさを見せるのです」