親にとって子供は、成人しても就職しても子供のままで、大丈夫だと思いつつ心配なものだ。心配のあまり新卒で就職した子供の入社式への出席を望む親も珍しくないらしい。ライターの森鷹久氏が、新卒社員の入社をめぐって起きる親子の問題と「子供たち」の向き合い方についてレポートする。
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都内オフィス街にも程近いカフェにいたのは、いかにも「着慣れていない」感じの真新しいスーツ姿の若い男性。男性の横には、シックなワンピースにジャケット姿、見た目50歳前後かと思われる女性がいて、男性に忘れ物がないか、道順は把握しているか、としきりに確認している。カフェの店員・山崎明彦さん(仮名・40代)がその時を振り返る。
「春だし、入学式シーズンだな、と思って微笑ましい気持ちで眺めていましたが、どうも様子が違う。大学生のアルバイトスタッフに『今日はどこの大学の入学式?』と聞くと、まだ入学式は先ですよ、って鼻で笑われちゃって」(山崎さん)
山崎さんはてっきり、カフェから歩いて十数分のところにある大規模イベント会場で、どこかの大学の入学式でも行われているのではないか、そう思っていたのだが、違った。あの若い男性は、オフィス街にあるどこかの企業の新入社員であり、山崎さんが目撃したのは、男性の入社式に母親が付き添っている一部始終だったのだ。
「一組だけならまだしも、同じようなお客さんが何組もいたので『入学式』と思ったのですが。新社会人にしては子供っぽいというか、母親に付き添われていたからそう思えたのか。もちろん、同じような真新しいリクルートスーツで、母親に付き添われている若い女性もいましたが、男性の方が多い印象です」(山崎さん)
地方から上京し、慣れない大都会で新生活を始める子供が心配で、入学式、そして一人暮らしの自宅まで付き添いあれこれと世話をする、これはごく自然なことだ。あるいは、いくら新成年とはいえ、18歳の我が子の門出を祝いたいという思いで親が入学式に参加する、これも一般的だ。18歳で社会人になる、という場合ももちろんあろうが、それを含めても、新社会人の入社式に親が随伴するとは驚きだ。
しかし「めずらしくない」と話すのは、山崎さんのカフェ近くに本社を構える、東証一部上場企業の人事部員・許斐真由美さん(仮名・30代)だ。
「我が子の入社式に『参加したい』と申し出る親御さんは意外と少なくないのです。地方から上京し、子供の東京での新生活が不安だ、とか、子供の会社がどういうところか見てみたい、と言うのです。まあ、気持ちはわからなくないのですが、中には、強硬に『参加させろ』『席を準備しろ』と言ってくる親御さんもいて、なだめるのに苦労します」(許斐さん)