北朝鮮の朝鮮労働党中央軍事委員会は3月中旬、陸海空軍部隊と道(日本の県に相当)や市など民間防衛部門に対して、「いかなる状況にも迅速に対応でき、本格的な戦闘準備態勢を整えるため、戦略物資の点検を行わなければならない」と指示し、軍部隊には弾薬、装備品、食糧の備蓄を、各地域の民間防衛部には保管している食糧、医薬品、タイヤなどの緊急物資を早急に点検し、中央軍事委に報告するよう求めていることが明らかになった。
これは、韓国で対北朝鮮強硬路線をとる保守系野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が次期大統領に決まったことで、北朝鮮の金正恩指導部が韓国との戦闘状態入りを想定していることが背景にあるとみられる。とくに、4月は金氏の最高指導者就任10周年や金日成主席の生誕110周年などの重要な記念日が集中していることから「北朝鮮の軍事挑発の程度によっては朝鮮半島情勢が激動しそうだ」と韓国の代表的な通信社「聯合ニュース」が報じている。
北朝鮮の安全保障問題に関わる情報筋が米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」に明かしたところでは、「韓国の次期大統領に尹氏が就任することや、ロシア軍のウクライナ侵攻、それに伴う米欧諸国とロシアの対立など国際情勢がますます悪化していることや、米朝間の軍事的対立が鋭くなっていることなどに対応し、わが国(北朝鮮)の最高指導部は国防力を強化する必要がある」と指摘した。
また、指導部が軍事物資や食料などの緊急備蓄物資の点検を指示したことについて、民間防衛部門関係者は「4月は11日が金正恩国務委員長(朝鮮労働党総書記)が2012年の党代表者会で党第1書記に推戴されてから丸10年になる記念日だ。その2日後の2012年4月13日は最高人民会議(国会に相当)で統治機構の最高位の国防委員会第1委員長に推戴され、金正恩体制の正式な発足を告げた記念日。さらに、15日は故金日成主席の生誕110年の節目に当たることから、国威を発揚するため、戦闘の体制を整える必要がある」と語っている。
このため、聯合ニュースは「北朝鮮は主な記念日の5年、10年の節目に合わせて軍事挑発などで情勢を緊迫させ、体制の結束を図るとともに対外メッセージを発してきた。特に節目の記念日が多い今年の4月はいつにも増して朝鮮半島の緊張が高まる恐れがある。韓国軍当局は米国と共に両国の偵察資産(兵器)をフル稼働させるなど対北朝鮮防衛体制の強化に動いている」と指摘し、北朝鮮の軍事的挑発の可能性に警戒を強めている。