人は元来、加齢と共に昼寝の時間や頻度が多くなるとされている。米スタンフォード大学医学部精神科教授で、同大学睡眠・生体リズム研究所所長の西野精治氏が解説する。
「睡眠リズムに影響を及ぼす神経伝達物質やホルモンの分泌機能が減弱したり、体温調節機能の衰えによって日中に活動性が上がらず眠くなるなど、高齢者の昼寝の増加には様々な要因があります。
それに加えて、春先は気候が暖かくなっていくので、日中に緊張が取れて副交感神経が優位になりやすい。リラックスすることで眠気が来ます」
だが、そんな心地よい昼寝に落とし穴があった。3月17日に米ハーバード大学などの研究チームが発表した論文によれば、「高齢者が長時間や高頻度の昼寝をすると認知症に繋がる」というのだ。
この研究では、平均年齢80歳前後の認知症でない高齢者1401人を対象に、腕時計型の調査機器を装着させ、日々の睡眠時間や認知レベルが記録された。
14年間の追跡調査の結果、対象の高齢者は少なくとも7年が経過した時点で昼寝の時間、頻度ともに2倍近く増えていた。さらには一日当たりの昼寝時間が「1時間以内」の人に対し、「1時間以上」の人はアルツハイマー型認知症の発症率が1.4倍に上がることがわかり、また一日の中で昼寝が「1回だけ」の人に比べ、「複数回」の人の発症率も1.4倍となったという。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が語る。
「過去にも昼寝が認知症発症リスクを高めるという研究はありましたが、『すでに認知症の人』から生活習慣をヒアリングするという形式のものが多かった。今回発表された研究ではまだ認知症でない人を対象に14年にわたる大規模調査を実施しているので、より信憑性が高いと言えるでしょう」
なぜこのような結果が出たのか。前出の西野氏が解説する。
「1時間以上の昼寝をしたり、一日に何度も仮眠を取ると、夜に質のいい睡眠が取れなくなるということが考えられます。
脳は使えば使うほど様々な老廃物が出てくるのですが、その中に認知症発症に密接に関わる『アミロイドβ』というタンパク質がある。きちんと良質な睡眠を取らないと、これらが排出されずに『脳のゴミ』として脳内に溜まってしまい、認知症の発症に繋がる可能性があります」
他の様々な病気のリスクも出てくるという。
「長時間の昼寝によって、糖尿病や高血圧などの生活習慣病や、がんの発症リスクが上がるという研究も報告されています。ヨーロッパなどで『シエスタ』という昼休憩の習慣がある地域では、シエスタが長すぎると死亡率も高くなっている」(西野氏)