──お笑いのアイデアを絵本として表現することで、あらためて気づいたことなどはありましたか?
田中:実は僕、あまり人前に出るのが好きじゃなかったんです。そもそも芸能界への憧れもないし、お笑い芸人と言いながら、テレビに映ることがつらくて。なので絵で表現できるようになってからとても生きやすくなりました。僕自身は矢面に立たず、僕が考えたものを僕の名前で出せますからね。
もちろん、漫画家や絵本作家としてテレビに出る分にはつらくないです。考えていることを真面目に話すだけなので。だけどおどけることができない性分で……。お笑い芸人だと自分の面白さを体で表現しなければならないので、その作業が負担になっていました。絵を描くというチャンネルを持つことでそうした負担が一気になくなっていきました。
あと、漫才でネタ作りをやっていた時に「どうしたらこの面白い感じを言葉に置き換えられるだろう」とずっと苦戦していたんですが、そういう時は決まって絵に描いて相方に説明していたんですよ。台本にも絵を描いていました。今振り返ってみると、お笑い芸人の頃から絵を描くことが自分の表現手段だったのかもしれません。
「子供たちの心に何か残したい」
──『ねこいる!』は特に子供たちに人気です。読者層としては、やはり子供向けに描いているのでしょうか?
田中:そうですね。もちろん大人が面白いと思った発想を絵に描いているので、大人にとっても面白いと感じてもらえるはずだとは思っています。けれどまずは子供たちの心に何かを残したいという気持ちがあります。子供たちの想像力を刺激できたら、素敵な世界を作っていってくれるだろうなと思うんですよね。
テレビ番組にはびっしりとテロップが出てきますし、ギャグ漫画はツッコミまみれです。個人的には「ここが面白いですよ」が少し過剰な気がします。
僕の表現は数多くある「面白い」のうちの一つでいいんですけど、たとえ同じ作品でも面白がり方というのはたくさんあるわけですよね。子供たちには「こういう見方もある」ということを発見して欲しい。だからあまりツッコミを入れたくないし、説明したくないんです。「なんか面白い」というものを僕は提供していて、子供たちはそれぞれが「面白い」と感じるところを自分で発見していく作業が大事だと思っています。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)