「ロシアのウクライナへの侵攻以降、12万人以上の子供たちがロシア軍によって強制的に連れ去られた」。4月8日、ウクライナ最高会議の人権担当者であるデニソワ氏は、フェイスブックにそう投稿した。戦慄の情報だが、ウクライナ戦争勃発後、ロシアによるウクライナ住民の連れ去り疑惑は度々報じられてきた。
ロシア軍によって壊滅的な被害を受けた南東部の港湾都市・マリウポリでは、住民5000人が強制移動の末に90km離れた「収容所」に入れられたとウクライナ政府が主張している。また、ウクライナの副首相は、市民4万人がロシア軍の占領地域に移動させられたと述べた。
「しかし、今回の子供12万人強制連れ去りはこれまでとケタ違いの衝撃的な人数です。デニソワ氏は『複数の情報源の話』として強制連行事件を訴えています。紛争当事者が自国領土に民間人を強制移住させることは国際的な人権侵害であるとして、各国はロシアを強く非難しています」(国際ジャーナリスト)
マリウポリ市議会は3月19日、ロシア側の行為についてSNSを通じ、以下の声明を発表した。
「第二次世界大戦中のナチスによる強制連行のような蛮行が21世紀に起きている。市民がよその国へ連れ去られるとは、想像を絶する事態だ」
一方、ロシア国防省は、ウクライナ側から65万8000人以上が「避難した」と発表した。うち12万人以上が子供だと認めた上で、「ウクライナ国民を救うための包括的支援の措置の一環」であると主張した。またロシア国営テレビは、「ウクライナ住民が自発的にロシア側に逃れている」と報じた。
だが戦時下のウクライナ住民が自発的にロシアへ移動しているとは考え難い。実際、米紙「ニューヨーク・タイムズ」によると、現地の住民はロシア軍に携帯電話や所持品を調べられ、パスポートを持たないままロシア国内に連行されているという。
マリウポリからの避難民が英放送局BBCに証言したところによると、ロシア軍は避難施設にいた市民を外に出してから、施設を砲撃して破壊。その後で、ロシアの支援を受けるウクライナ東部地域にとどまるか、ロシアに渡るかの選択を避難民に迫った。なかには高齢のため、自分がどこに何のために行くのか理解できない避難民もいたという。
「ウクライナから連れ去られた住民は、『封印列車』と呼ばれる列車で運ばれるはずです」
そう語るのは、プーチン大統領研究の第一人者である筑波大学教授の中村逸郎さん。
「ロシア軍が、“戦地から離れた安心で安全な場所に移動しよう”と、言葉巧みにウクライナ住民を列車に乗せた可能性があります。廃墟と化したふるさとを目の当たりにして、“もうここへは戻れない”と絶望する人々の気持ちにつけ込んだ誘導です。しかもウクライナ住民を乗せる『封印列車』は窓ガラスや乗降口がネジで締められているので、いったん乗ると自分の意思で降りることができません」
この蛮行を決して許してはならない。
※女性セブン2022年4月28日号