お馴染みだった鉄道車両が引退したあと、余生の過ごし方は様々だ。歴史的なものとして展示されたり、地方の鉄道を走ることもある。再び走ることになった場合、これまでは、その地方鉄道が指定する色に塗り直されることも多かった。ところが、最近は往時のカラーリングのまま走っている例が増えている。ライターの小川裕夫氏が、渋谷から秋田へ引っ越した「青ガエル」や、お色直しをせずに地方を走る鉄道車両の事情についてレポートする。
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秋田県大館市は、東京・渋谷駅前広場に設置され、観光案内所としても使われていた東急電鉄5000形を2020年に譲り受けた。5000形は前から独特な外観で人気が高く、そのカラーリングと前から見ると丸みを帯びた下ぶくれ顔をしていることから”青ガエル”との愛称で呼ばれた。
大館市は大館駅前にある観光交流施設「秋田犬の里」に、引き取った青ガエルを展示。観光案内や秋田犬の情報発信拠点として活用していた。
秋田県は毎冬に多量の積雪を観測する。秋田犬の里に展示されている青ガエルは、冬眠という名目で一般公開を休止。今年は4月8日に冬眠から目覚め、一般公開を再開した。
「秋田犬の里は、市が整備した観光・交流施設です。大館市が青ガエルを引き取ったのは、もともと渋谷区と自治体間交流があったからです」と説明するのは、秋田犬の里の担当者だ。
2001年、大館市と渋谷区は防災協定を締結。翌年、渋谷区は学校給食で大館市産のコメを使用開始している。
こうした縁から渋谷駅前にある5000形が大館市へと引き取られることになったわけだが、「大館市民にとって、東急電鉄と言われてもピンとこないのが実情かもしれません。しかし、秋田犬の里は小坂鉄道の大館駅跡地を整備したものです。だから、鉄道とまったく無関係ではありません。青ガエルに会いに来た鉄道ファンが、小坂鉄道の史跡にも触れていくといった観光効果を生み出しています」(秋田犬の里の担当者)
小坂鉄道は小坂鉱山で採掘された鉱石を運搬する貨物輸送がメインで、1994年に旅客輸送を終了。しかし、その後も貨物輸送は2009年まで続けられた。
大館市に引き取られた青ガエルは、実際に営業運転していない。それでも一般公開されているため、昔を懐かしんで訪問する旧沿線住民や鉄道ファンがいる。