在校生7万人、卒業生120万人という日本最大のマンモス校・日本大学。2021年に脱税や背任容疑で大学トップと側近理事が逮捕されるという前代未聞の不祥事を経て、組織の再編・再生へと歩み始めている。その最中、長く大学に巣くった“病巣”とされ、不祥事のど真ん中にいた田中英寿前理事長(75)が、ジャーナリスト・時任兼作氏の取材に応じた。四面楚歌の元大学トップは、いま何を語るのか。
【日大事件の概要】
日大医学部附属板橋病院の建て替え工事を巡り、大学から約4億2000万円を流出させたとして、2021年10月、東京地検特捜部は医療法人「錦秀会」前理事長の籔本雅巳氏(61)と日大元理事の井ノ口忠男氏(64)を背任容疑で逮捕、起訴した。同年11月、籔本氏らから受け取った計1億2000万円を税務申告せず、約5300万円を脱税したとして、同特捜部は日大前理事長の田中英寿氏を所得税法違反の疑いで逮捕、起訴。東京地裁は田中氏に懲役1年執行猶予3年の有罪判決を下した。田中氏は控訴せず、4月13日に判決が確定した。
「外部に乗っ取られる」
日大が体制の一新に向けてようやく動き出した。4月7日、同大は田中前理事長の脱税事件や、その側近の元理事らによる背任事件などの不祥事を踏まえ、再発防止策をまとめた報告書を文部科学省に提出した。
報告書は、田中前理事長の専横的体制や、理事会の形骸化などが事件の発生原因となったと結論付け、加藤直人理事長を含む現理事らが6月末までに全員退任したうえで、外部から新理事長を招き、7月から新体制を始動させるとした。
新体制では権力の集中を防ぐため、理事長は2期8年までとし、理事会は36人の定員を20人程度に減らす。また、日大卒業生や元教職員ではない外部人材が3分の1以上を占める構成にする方針だ。
報道陣から日大再生への決意を問われた加藤理事長は、「再生していかないと本学は成り立っていかない」と述べた。田中氏が構築した体制を完全に否定する形での再生を宣言したわけである。
こうしたなか、有罪が下された判決に際して弁護人を通じ「判決を厳粛に受け止めております」とのコメントを出しただけで、これまで口を閉ざし続けてきた田中氏が筆者の取材に応じた。
「いまさら日大に戻る気はまったくないよ。ただ、この再生案では日大が崩壊してしまう。それだけが気になっている」