「ロシア人とベラルーシ人の今後一切の宿泊受け入れを停止します」。滋賀県長浜市のある宿泊施設が2月からホームページに掲げていたメッセージ。4月11日、県が「旅館業法に抵触する恐れがある」として行政指導を行ない話題になった。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、侵攻とは関わりのない日本に住む罪なきロシア人たちが、非難の矢面に立たされている。
埼玉県にあるロシア料理店がネットの口コミ欄に〈ピロシキが変な味がした。人肉が入っている〉という書き込みとともに、血を流して倒れる兵士の写真を投稿されたことも報じられたが、こうした嫌がらせは各地で相次いでいる。
大阪市でロシア料理店を営むハバロフスク出身の40代女性・タチヤナさん(仮名)はこう話す。
「戦争が始まってから、店に『死ね』『ボケ』と一方的に怒鳴られる脅迫電話が何度もかかってくるようになりました。ネット上にも口コミとして店の悪口が書かれていると聞きましたが、ショックを受けるので見ないようにしています。店にはロシア人の女の子たちも来ますが、『あまり外を出歩かないほうがいいね』と話している」
実際に街を歩いていて、嫌な思いをするケースも少なくない。
東京に住むモスクワ出身のモデル・中庭アレクサンドラさん(31)は10歳の時に来日。幼少期を大阪で過ごしたが、府内の様子にも変化があるという。
「大阪に住む母が近所のタバコ屋さんに行った時、店のおじいちゃんに『どこの人?』と聞かれたらしいんです。何も考えずに『ロシア人だよ』と答えたら、『出ていけ! 人殺し!』と怒鳴られた。これまでには考えられなかったことなので、母は困惑していました。
私も戦争が始まる前までは『何人?』と聞かれた時、何の違和感もなく『ロシア人』と答えていたけど、いまは正直に言えない自分がいる。先日も美容院で店員さんに聞かれた時、とっさに『ブルガリアです』と答えてしまった」
ハバロフスク出身の太田イリーナさん(40)は、大学在学中の20歳の時、日本を旅行中に現在の夫に出会い、そのまま帰国せずに結婚。2010年に長男を出産し、2018年には兵庫県淡路島に移住してキッチンカーでロシア料理の販売を始めた。
「私の店の口コミ欄にも《ひどい豚肉料理を食べさせられた》という嫌がらせのコメントが投稿されたことがありました。うちの店では豚肉料理は出していないので、食べもせずにコメントを書いたことはすぐにわかった。
ロシアがウクライナ侵攻を始めてから、小学6年の息子には、学校ではまず『自分は戦争反対だ』という意思表示をするよう伝えました。何も恐れず堂々としていればいいのよ、と」