停戦の糸口が一向に見えてこないロシアのウクライナ侵攻。在日ロシア人は、国に残った家族との断絶に苦しんでいるという。日露間の貿易業のために30年前に日本に移住した50代男性・ドミトリーさん(仮名)には、3人の子供がいる。
「3人とも大学卒業と同時にロシアに帰国し、現在は長男と長女は他の国で暮らし、次男だけがロシアに住んでいます。次男は子供たちのなかでも最も私と気が合って、国際政治の議論をするなど電話で頻繁に連絡を取り合う仲でしたが、戦争が始まってから関係が一気に険悪になってしまった。
私は戦争には断固反対で、いかなる状況下にあってもこの意思に変わりはありません。しかし次男はロシア国内での報道を連日見聞きしているうちに、完全にプーチンの考えに染まってしまった」(ドミトリーさん)
ロシアの国営テレビでは、今回のウクライナ侵攻について「戦争」や「侵略」という言葉を使わず「特殊軍事作戦」という言葉を使用するなど、国内の情報統制は強まるばかり。ドミトリーさんの次男はその報を信じ切り、ほとんど洗脳状態にあるという。
「次男は日本語のほか英語、ドイツ語、中国語などの知識もあり、情報リテラシーのある人間だった。なのに電話で話を始めると、1分も待たずに口論になってしまう。戦争とは違う話をしていても、次男はすぐに政治や戦争の話に結びつけて、『ロシアは正しいんだ』と主張する。
責任を持って育ててきた我が子が、いとも簡単に戦争に賛成してしまうような大人になってしまった。親として一生の不覚であり、悔やんでも悔やみきれません。あなたにこの悲しみがわかりますか?」(同前)
ドミトリーさんはいま、ビジネスでも窮地に追い込まれている。
「日本からロシアに向けてさまざまな商品を送っていましたが、戦争のせいでルートが絶たれてしまい、送金も不可能になった。収入は激減どころか、ゼロです。他の市場の見込みは立っておらず、この状態がこの先3か月以上も続いたら、会社を潰さざるをえないし、数十人の社員を路頭に迷わせてしまうことになる。私はこの戦争に何もかも奪われそうになっている」(同前)