気温も上がってきたこの季節。野外に繰り出すのもいいが、室内でゆっくり読書を楽しむなんてのも、結構いいものです。いまこそ読みたい4冊の新刊を紹介します。
『いつもの言葉を哲学する』
古田徹也/朝日新書/935円
最近の日本語にはキョーフを覚える。「批判なき選挙と政治」を目指す女性政治家、国語辞典の定義を覆した元&前総理。「不快な思いをさせた」と表をツルンと撫でて論点を隠す謝罪法。ここでは取り上げられていないが「思う」を丁寧語として使う風潮も気になる(例/3.11があったと思うんですけど)。言葉の貧困は対話の拒絶にも繋がる。適切な日本語の使い方、取り戻したい。
『きみだからさびしい』
大前粟生/文藝春秋/1650円
繊細で臆病で“政治的に正しい”。現代の恋愛小説ってこんな難しい所に突っ込んでいくんだと目が丸くなる。ホテル勤務の24才の圭吾。ランニング仲間のあやめさんに告白するも、彼女は合意の上で複数の相手と関係するポリアモリーだった。本書を読むとよく分かる。従来の恋愛小説がいかに固定化したジェンダー観の上に成立していたかが。やっかいな時代の真情吐露小説だ。
『小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記』
原作 藤子・F・不二雄 著 辻村深月/小学館文庫/792円
どこでもドアで月の裏側に降り立ったドラえもんとのび太。ウサギ王国を造り帰還する。折しも学校にルカというスーパー転校生が現れる。彼の出自は? 彼の背負った運命とは? 人類月面着陸50周年の年(公開時)に、地球、月、カグヤ星を結んで繰り広げる大冒険活劇。友情の大切さを謳い、不老不死という人類の夢への著者ならではの解答が、この冒険を美しく締めくくる。
『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』
ルシア・ベルリン著 岸本佐知子訳/講談社文庫/990円
単行本時、小説好きを狂喜させた短編集。物故作家にもかかわらず、これを翻訳したいと熱望した岸本佐知子さんに大感謝だった。労働の悲哀を乾いた毒とユーモアでピン刺しする表題作、メキシコに飛んで妹を看取る「あとちょっとだけ」、その妹と“イカれた”母親の思い出を語り合う「ママ」など24編。この4月下旬には第2弾も刊行される。首がもげそうなほど待ち遠しい。
文/温水ゆかり
※女性セブン2022年4月28日号