視覚を司る角膜(黒目)が様々な原因で障害されると濁り、著しく視力が低下する。通常は角膜移植で治療するが、回復しない難治性疾患に対しては治療法がなかった。ようやく患者自身の口腔粘膜で作製した培養シートが医療機器として承認された。その培養自家口腔粘膜シートを角膜移植の要領で移植すると、拒否反応のリスクなしに眼の表面が改善し、視力回復も可能だ。
外界からの視覚情報を眼の表面でキャッチするのが、厚さ550~700ミクロンの透明組織である角膜だ。この角膜が熱・化学外傷や角膜上皮幹細胞が障害されるスティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡になると濁るだけでなく、まぶたの癒着やドライアイなどを生じ、極度に視力が低下する。重症例では角膜移植でも治療不可能となる。これら重症例に対する新しい治療法として20年以上前から、培養粘膜シートによる再生医療の研究が行なわれてきた。
京都府立医科大学附属病院眼科の外園千恵教授に聞く。
「角膜の一番外側にある角膜上皮という粘膜が様々な原因で障害され、縮んでしまうと角膜移植でも治癒しません。そのため角膜上皮の再生を目指し、1990年代後半から粘膜シートの研究を始めました。最初はアイバンクのドナーの角膜からシートを培養する技術を研究していたのですが、承認を得るまでに多くの資金と時間が必要な上に、共同研究していた医療ベンチャーが倒産、残念なことに開発が一時頓挫してしまったのです」
しかし、外園教授らは2つの技術の研究を続けた。ひとつは角膜から角膜上皮シートを作る技術、もうひとつは子宮内側の羊膜を使い再生する羊膜移植技術だ。
1998年には日本で初めて大学倫理委員会の承認のもと、難治性角膜疾患に羊膜移植を行ない成功。さらに羊膜バンクを設立し、日本組織移植学会の認定バンクとして活動を開始したのだが、羊膜は移植後時間の経過とともに効果が減弱するケースがあった。
それでもやはり、粘膜シートの開発が欠かせないと研究開発を継続し、今度は患者の口腔粘膜から粘膜シートを作成する技術開発に取り組んだ。それを支援したのが、神戸医療産業都市推進機構であり、共同で実用化を目指した。