北朝鮮では備蓄燃料の個人所有と販売は、これまで「当局のお目こぼし」という形では容認されてきたが、ロシア軍のウクライナ侵攻などにともない、世界的に原油価格が高騰したあおりを受けて、北朝鮮全土で燃料不足が深刻化しているため、北朝鮮当局は石油やガソリンなどの民間販売業者を厳しく摘発していることが分かった。
北朝鮮の石油販売業者が米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」に明らかにしたところ、国営商社が運営するガソリンスタンドの燃料価格は今年初め、ガソリン1リットル当たり9800ウォン(約680円)、軽油が7500ウォン(約520円)だったが、3月末にはガソリンは1リットル当たり1万7000ウォンとほぼ2倍弱に、軽油も1リットル当たり1万2000ウォンと1.5倍に跳ね上がってしまった。
さらに、ある個人業者はRFAに対して、「燃料価格が最近、高騰しているのはウクライナ問題もあるが、(北朝鮮)政府が年明けからこれまで数回も弾道ミサイルの発射実験を繰り返していることも原因だ。政府がガソリンをミサイル発射のために使っていることが、国内のガソリン不足に拍車をかけている」と苦境を訴えている。
このため、国営のガソリンスタンドでは、ガソリンが不足すると、ナフサなどの安い燃料を混ぜて販売することが知られている。これは量を増やすことができる半面、ガソリンで走ることを前提とした自動車や機械にダメージを与える恐れがある。
その一方で、個人業者の場合、そのようなナフサなどを混入することはほとんどないことや、国営スタンドの政府価格より1リットル当たり1000ウォンほど安いため、人々が個人業者のスタンドに押し寄せて来ていた。
この状況を見て、政府機関が個人業者を取り締まるようになっており、庶民にしわ寄せがきているようだ。
RFAは「この時期は農作業が始まるため、耕運機などの農機具でガソリンの需要が増えるのだが、新型コロナウイルスの感染予防対策で中国との貿易が中断していることもあって、燃料の備蓄は例年より少ない。さらに、政府が個人業者のガソリン販売を取り締まっているため、市場に出るガソリンはほとんどなくなっており、このあおりで農作業も進まず、今年秋の農産物の収穫量も少なくなるとみられる。この個人業者の取り締まり強化は北朝鮮経済を一層悪化させる大きな要因になっている」と指摘している。